4階建ての教室棟の向かいには、同じ高さの本館がある。その間には中庭とは名ばかりの、たまに駐車場になるアスファルト貼りの小さな広場があって、申し訳程度に掠れかけのバドミントンコートが描かれている。昼休みはもっぱらドッヂボールコートに使われるのだが。
二人は教室棟の4階廊下の窓から、今は人も車もいない中庭を見下ろしていた。
「ここから飛び降りたら、人ってやっぱ死ぬかね」
和哉がぽつりとこぼした。廊下は下校する生徒と掃除を早くして早く終わらせたい生徒で少し騒がしい。開けた窓から軽く覗き込んで、彰はやはり暇そうに、うーむと唸った。
「死ぬんじゃねーの。下アスファルトだし」
「うーん。やっぱり死ぬよなあ。いやね、本館の方見てたらさ、なーんかいけそうな気がして」
そう答えた和哉に、少し驚いた顔をして彰は隣の友人を見た。ちなみにバレー部の次期エースである彰からすると、和哉の頭はだいぶ下の方にある。彼の旋毛は右巻きだ。
「ここから下見るより向かい見た方が高さヤバいだろ。なんで本館の方見てていけそうな気がするんだよ何メートルあると思ってんだ」
「いや彰なら頑張ればいける」
「いけねーよ死ぬよ。というか何で俺が飛ぶ話になってんの」
「俺が飛んだら死ぬだろ?」
「俺が飛んでも死ぬわ。おまえ俺のこと何だと思ってんだよ」
「バレー部」
「バレー部はスーパーマンじゃないです」
「あっ掃除終わってんじゃん帰ろうぜ」
冬の日が落ちるのは早い。外はすっかり夕焼けになっていた。廊下の人も疎らになって、窓からの風はやっぱり少し冷たかった。期末テストまであと16時間。
冬まで - back