優しい雨

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※曲を参考に作ってます。ご注意ください

「なんで?!わかってくれないのはそっちじゃん!」
「は?何回言ってもわかんないのはお前だろ!?」
「...もういい。別れようよ。私のこと別に好きなわけでもないんでしょ...」

そう言って彼女は目の前の席をたつ。

「え...?ちょ!小春!」

慌てて席を立ち、カフェから出る。
目の前には傘をさす人、人、人...

(くそ...人混み苦手なくせに)

探しても探しても、小春の姿は見えない。
隙間風が冷たいせいで、寒く感じる。
傘はない。小春が持っているから。


少し歩いたが、小春は見つからなかった。
店の壁にもたれかかって雨を凌ぐ。

ずっと下を向いて考えていた。

(この靴も、小春がくれたんだっけ)

1年前の誕生日に小春がくれたカジュアルめな革靴。
毎日磨いていたし、学校や何やらで普段履くこともなかったから新品同様なはずなのに、貰った時より汚れて見える。

その革靴を見ていたら、急に滲む視界。

(あれ...私泣くのか...?)

さよならって言わないでくれ。
どこにも行かないで、私の傍に居てほしい。

そういえば「好き」だなんて、付き合って以来一度も言ったことがなかった。
それが不安にさせていたのか。

『私のこと別に好きなわけでもないんでしょ』

小春の言葉がフラッシュバックする。

そんなわけないじゃないか。
不器用なところも、すぐ笑う癖も好きだ。
仕草が似てたり、あくびが移ったり。
それだけで幸せなはずだった。

どうしてすれ違った...?
私だ。私が小春を不安にさせていたんだ。
たった一言、言ってあげればよかったのに。

気づいた時にはまた足が動いていた。
人混みを分けて、雨なんか忘れて。
小春がいなきゃ、私は...

「小春!」

走り続けた先、駅前に小春はいた。

「...三郎」

振り返った彼女の左手、傘を持っていない腕を掴む。
少し温かい。私の手が冷たいから。

「行かないでくれ、お願いだから」

声を振り絞る。
自分でも震えているのがわかる。

でも彼女は首を振る。

「もうダメなんだよ、私達」

俺の手が彼女の腕から解けていく。
ずるい。
私残して、一人でどこかにいかないでくれ。
他に何もいらないから...

「好きだよ。お前がずっと、今も昔も。悪い、今まで言ってこなくて...何度でも今なら、これから言うから、だから...」

そう言って顔をあげた時

「遅すぎるの」

彼女は泣いていた。

「もっと早く気づいてよ。不安だった、ずっと三郎は私のことなんか」

好きじゃないと言いかけた彼女の唇の動きを止める。
唇は彼女の方が冷たかった。

なんで私たちは出会ったのだろう。
どうして私たちは過去なんだろう。

そう思っていた。
でも諦めきれなかった。
それは、

「好きだよ、小春」

この気持ちのせいだろう。

君と私の物語はきっとハッピーエンドだから。
安心して。私がいる。

優しい雨が頬を濡らしていた。

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