ニコチアナゼリー

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いつもと違う香りがする。



「...そろそろ離れてよ」
「嫌だ」
「何にもないんでしょ」
「...」

恋人の鉢屋三郎は、後ろから私の腰に腕を回したまま、私の肩に顔を埋めて5分ほど動かない。
一応ここは三郎のクラスの教室前の廊下で、人前ではある。私は一般的な高校生カップルの、いちゃいちゃラブラブが苦手なのだが...困ったものだ。

最近の三郎は変だ。

何も求めず、何も言わず。懐いた野良猫の様に、でも無愛想に、こうやって私について来ては、人前も関係なく無言のスキンシップを取ってくる。
理由を聞いても「何でもない」しか言わない。

私からしたら、中途半端に味付けされてある、無味に近い透明のゼリーを食べさせられ続けている気分だった。

私は素直に口に出せない三郎の性格を知っているのだ。何かあるに違いない。
どう頑張っても動けない体は諦めて力が抜ける。

「またやってんのかー?」
「ハチ」

よっ!と言って三郎のクラスの教室から出てきたのは、ハチこと竹谷八左ヱ門。最近のコイツは救世主だ。

「おい〜三郎。これから体育だぞ、離してやれ」

こう言って私たちの真正面に立ち、三郎の腕を無理矢理剥がす。きゅっと縮まっていた私の体が、みるみるうちに解放される。

「助かった〜。ありがと、ハチ」
「おーよ!小春も気をつけろよ、こいつ寂しんだと思うぜ。最近の小春、部活やら委員会やらで三郎のこと構ってないだろ」

あぁ、なるほど、そういうことか。

2年後期、先輩が引退した部活に委員会。確かに忙しい。三郎は部活には入っていないし、特に仕事もない学級委員。
最近の連絡も1日するかしないか。しかも返信を返していないのは私と...。

「ごめん、寂しかったんだね」

照れ隠しなのか、下を向いたまま無言でコクンっと頷く三郎が何だか可愛い。

「私も言えなくて悪い。大変なのは、わかってる」

やっと口を開いた。最近聞けてなかった三郎の声が少し泣きそうで、こっちまでちょっとつられる。

無味なんかじゃなかったの。

「お前といるだけで寂しくない」

ゼリーの中に入っていたのは、もうすぐ見れなくなるニコチアナ。

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