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「は、は……」

 プシッ!と羊が爆発をした。くしゃみをした。私のくしゃみはとまった。ウールの体が震える。海に落ちたのはこれで2回目だ。しくじった。本当に、靴があんなにも滑るだなんて思わなかったんだ。もしも空条があの場に残っていなければ、今頃は。

(最高にカッコ悪かったなあ、私)

 後悔しても過ぎたことは仕方がない。せめてくしゃみだけでもどうにかならないものかと大窓の周辺部に固まる計器類ほかをひたすらじっと眺め続けてはみたけれど、出ないものは出ないらしい。目の高さ斜め下のもこもこときたら、あんなにもすっきりとした面持ちをしているというのに。

「納得できん!」

 まったくその通りだ。大きな歯車のような操縦桿はジョースターさんの言葉に反応することなくごろりとひとりでに舵をきった。
 これだけ大きな船なのに、誰も乗っていないだなんておかしな話だ。甲板も、通信室も、こうして足を運んだ操舵室にも人の気配は見当たらない。まるで幽霊船だ。

「お、おばけとか。いたりして」
「何でそーなるんだよ」
「だって、本当に誰もいないし」
「全員ゲリ気味で便所入ってんじゃあねーのか」
「なんてこと言うの」

 余計なことを想像した。「つきあってらんない!」とポルナレフをひっぱたき、操舵室を出る。
 船員さんたちも含めて知った顔以外に誰もいない、広い甲板は相も変わらず無機質だ。使い込まれた色のクレーンがよく晴れた空を割っている。面白い。上ばかり見上げていたものだから、一緒にこの船に乗った船員さんのひとりにぶつかってしまった。もちろん謝った。

「やっぱり、誰もいませんか」

 そう尋ねると、アヴドゥルさんはううむと一度、深く唸って腕を組んだ。

「見張りもいない、とは」
「何か事故があって、全員避難してました、だとか。そんな可能性は」
「どうだろう。しかし積み荷の様子を見るに、異常があったとは言い難い。
 これほどの船が無人であるはずはないのだが」

 きい、と知らない何処かが軋んで、海風にスカートが揺れた。



「ねえ、みんな。来てみて」

 操舵室脇の扉から、例の女の子が顔を出す。“例の”って。後で名前を聞いておこう。操舵室にいた一同は手招かれるまま船室に足を運ぶ。それからすぐに「オランウータンだ」と口にしたのは花京院だ。

「動物がいるなら、」

 アヴドゥルさんも頷く。

「世話をする人間も乗っているはずだ」
「ですよね。それじゃあ私も……」
「アヴドゥル! ナマエ!」

 怒号が飛んだ。

「その船員が危ないッ!」
「――え?」


 足元を雨粒が叩いた。







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