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『迷い子羊』に足りないのはガツンと堪えるような決定打ではなかろうか。なんてふと思ったのだけど、これって自己分析の一種になるかしら。
(どっちでもいいか)
波間を眺めていたらどうでもよくなった。頭突きで怯んだニセ船長は『白金の星』のラッシュを食らって海に落ちて、それっきり。随分と強引だった気もするけれど、とりあえず、奇襲は成功したということで。
「海水をたらふく飲むのは……てめーだけだぜ」
女の子はちゃんと無傷の状態で『白金の星』に掴まれている。安心して息をついた私の隣で空条は「なにか言ってやれ」とアヴドゥルさんに決め台詞を促した。そういえば、予言がどうのって言ってたね。
「占い師の私を差し置いて予言するなど」
「10年早いぜ」
「おっ」
はじめの声がアヴドゥルさん、次が台詞をさらうついでに私の頭を掴んだポルナレフ。最後のあれは言うまでもない。
「ナマエ! お前ってやつは!」
「あ、ま、まって」
「イイトコロだけ持ってきやがってよォ!」
「わっ、あ、……もう!」
がしがしと犬でもあしらうみたいに撫でられて、慌てて振り払ったけれど遅かった。強引に収めていた寝癖は案の定、なんてひどいことを!
「見ろよ、流されていくぞ」
「見えてるよ。……ああ、せっかく直したのに……」
リトライするだけの気力は無くて、髪留めの場所だけ整えた。緊張して疲れたんだろうか。なんだかやけに、頭が重い。
「『暗青の月』……自分のスタンドの能力自慢をさんざんしていた割には大ボケかましたヤツだったな」
言われてみれば確かにそうだ。その自慢の能力も“水中を素早く動けること”くらいで、特別変わっているとは思えない。おかしい。さっきから
「承太郎、どうした?」
船縁の柵に寄りかかる。汗の感覚が気持ち悪い。頭痛と目眩が収まらない。
「さっさと女の子をひっぱりあげてやらんかい!」
「……ナマエ?」
ジョースターさんと花京院の声が遠く離れて反響して、羊の悲鳴と重なった。これは。これは、まずい。
額を拭ったはずの手に、べったりと血が付いている。