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 ともあれ、女の子は密航を企んでいて、密航とは犯罪行為なのである。たぶん。

(どうしようかな、これ)

 あれからすぐに船長がとんできて、騒ぎはますます大きくなった。この件に早くも飽きてしまった私は少し離れた場所にいて、窓を見ながらの寝癖直しを全く終えられないでいた。潮風にでもやられたのか、実に頑固な曲線美だ。くそう。

「待ちな」
「はい?」

 あ、やだ違う。呼ばれたのは私じゃなかった。恥ずかしさで勝手に真っ赤になっていたけれど、ガラスに映る背後の様子からして、どうやら。それどころじゃあないらしい。

「こいつは船長なんかじゃあねえ」

 「今わかった」と。空条は至って冷静に、迷うことなく指し示す。

「スタンド使いはこいつだ」


**


(飛行機の時もそうだったし、認めたくはないけれど)

 恐ろしいことに。刺客は案外、身近な場所に紛れ込んでいるものなのだ。
 それにしても前口上の長いこと。『暗青の月』が暗示する意味まで、ご丁寧に説明しちゃって! 嫌味も兼ねてお礼のひとつも言ってやりたいところだけれど。あの緊迫した空気じゃあ、今更戻るに戻れない。

(さて)

 窓の下は運良く死角になっていた。屈めと引かれたスカートの位置を直しながら、羊と一緒に様子を窺う。
 ……女の子を抱えている魚人型の生物、あれが敵のスタンドだろうか。目が四つもあるクセに、索敵向きではないようだ。もしアレがただの飾りなら彼とは一生分かり合えない自信がある。

「どうにかしてあの場を撹乱できないかな……。
 あ、ねえ『子羊』。いいこと考えた。ちょっと私に変身して――」

 ノー。

「……あんたねえ、ワガママ言って良い時とそうでない時くら、い。あー」

 足を踏まれた。

「分かった、わかりましたよ」

 ここまで拒絶されると傷付くものがあるけれど、気を取り直して次の作戦を考えよう。ニセ船長も機嫌が良いのか、まだ話し続けていることだし。
 待てよ、ということは

「比べっこしてみないか?」

 ニセ船長が挑発する。注意はあちらに向いている――攻撃するなら今しかない。

「『迷い子羊』!」

 矢のように走るビー玉は敵スタンドに一掃された。動揺の中を転がる欠片はどれも半球。踏まないように隠れ場所から飛び出して、ニセ船長に舌を出す。

「ナマエ――」
「防がれているぞッ!」
「分かってる!」

 たかがビー玉、全て弾かれることなんてとっくの昔に予想済みだ。つまりはダミー。
 すなわち、本命は真下から。


「“足元にはご注意を”」


 『暗青の月』の腕の中、少女の陰から羊が姿を現した。蹄がガツンと床を蹴り、目一杯の頭突きを食らわせた。






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