17
響く波と喧騒、水面を叩くような音で目を開けた。一面に広がるのは、星のない。
(なんだ夜か)
二度寝には向かないベッドだと頭の中でケチをつけ、寝返りをうつ。柔らかい布地が頬を滑った瞬間、
「うあ」
世界は白昼に変わった。
「ま、まぶし――イタッ」
日陰を求め反射的に持ち上げた腕を強打する。間も光は突き刺さる。なんなのどういうことなの。一体誰がこんなことを。寝ぼけ眼に太陽だなんて、酷だと思わないのかヒトデナシ!
「……ん? おお、くーじょー」
の、帽子。
が。なぜか私の手にあった。さっきまで日差しを遮っていたのはコレだったらしい。でも、どうしてここに。帽子から下は?
「む」
そうそう思い出した、結局あれから寝たんだっけ。どの位時間が過ぎたんだろう。片手に帽子、もう片手で日除けを作ってデッキチェアを降りた。
「おはようございます」
「……おう」
掠れた声でも挨拶は伝わった、らしい。手のひらに隠れて表情は全く見えないけれど、お礼と一緒に返した学帽をちゃんと受け取って貰えてよかったと思う。
――そういえば、空条の脱帽姿って見たことなかったな。
(気になる)
寝起きのよわーい意志は好奇心の前に脆くも崩れてしまうものである、なんて考えながら日除けの手を下ろす。まぶしい!
「って。もう帽子被っちゃったのね」
「なんだ」
「こっちの話。……ところで、空条。
最近泳いだ?」
広がる水たまりの真ん中で、空条は深い溜め息を吐いた。上着の袖から水滴が落ちた。
**
「密航?」
頭を掻いて「ちょっとよくわかんない」と素直に述べるとポルナレフに頬をつねられた。
「いたい!」
「イイ加減目ぇ覚ませよ」
「覚めてる! 覚めてるってば!」
今ので完全に覚醒したわ。ええと、まずこの船に密航者がいて。それがシンガポールのお父さんに会いに行くのだと主張する女の子。そこまでは良いんだけど、私が寝ている間に起きた騒動でスタンド使いの疑惑が浮上した、らしい。スタンド使い?
「あれが?」
うっそだあ、とつい口にしてしまった。ナイフを構えた女の子はアヴドゥルさんの質問に明後日の答えを返し、それを笑った花京院もなじる。“ドサンピン”ってすごいな。言葉のナイフってきっとああいうヤツを指すのね。こわい。
「他にスタンド使いが紛れ混んでたりしないの?」
「だから、あのガキが」
「いやあ、あの子は違うと思うよ」
船内を散歩していた羊がいつの間にか女の子の脇に立ち、興味深そうに匂いを嗅いでいた。時折もしゃりと髪を食むアレを無視だなんて。鬱陶しすぎて出来るわけがない。
ああ、“見えない”って幸せなことだ。