15
至極個人的な『招かれざる客』――空条と花京院を前にして、まず心臓が跳ね上がった。次に爪先からじわじわと感覚がなくなって、そこでようやく“終わった”と思う。
(や、待てよ)
私が一方的に焦っているだけかもしれない。だったらここで私が隠れるのは不自然だし、挙動不審な様子はかえって目立つに違いない。
だとしたら道はひとつ。知らんぷりを決めるに限る。化粧に衣装、諸々のオプションを踏まえて見積もって、私だとバレない確率は。
「っに、ニイハオ! いらっしゃいま」
「ナマエ!」
0%、敢えなく玉砕。逃げる間もなく首根っこを掴まれて、あっさり捕獲されてしまった。
「まさかこんな所にいるなんて……
承太郎、お店の人には僕が話をつけてくるよ」
「頼んだぜ」
「ちょ、やだ、人さらいーっ」
「てめーは黙ってろ」
2人共どうしてそんなに手際が良いのかしら。聞いてみようとした途端に抱え上げられて、勢いと高さに驚いたらなんかどうでもよくなった。ほんとひどい、問答無用ってこのことね!
**
船に乗るまで時間があるからと放牧された港の市場。綺麗なお姉さんに話しかけられたのはまさに食べ歩きの途中だった。
『ねえアナタ、アルバイトしてみない?』
バイトの子が急に来れなくなったとか、衣装のサイズがどうだとかこうだとか。返事をしたつもりはないのだけど、
「気がついたらお手伝いすることになってて。
……に、似合う?」
さっきまでは平気だったけど、同年代が相手だとやっぱり恥ずかしいのがバニーガール。照れ隠しに「じゃーん」と効果音付きでポーズを決めたら更に妙な空気になってしまった。誰か助けて。というか似合ってないならハッキリ言ってくれればいいのに、お世辞でも期待した私がバカだったわ!
「……やれやれ。おいミョウジ」
「え、――わっ」
「着てろ。海風は冷えるぜ」
察するに、被せられたのは学ランか何かだろうか。頭からすっぽり覆われた空間には仄かな煙草の匂い。抜け出そうともがくけどなかなか上手くいかない。あっ、ウサミミが引っかかってる。
「は。出られた……ありがと、空条」
お礼を言うと一瞬目が合って、すぐにそっぽを向かれてしまった。そんなに嫌かとやさぐれながら疑問をひとつ。
「ところで2人とも、何かあったの?
私を探してたみたいだけど」
ああそうだった、と花京院。
「船の準備ができたから、集合するようにって」
「え、もう?」
「予定より早かったみたいだね。
はいコレ忘れ物。僕らは先に行ってるから」
「分かった、また後で」
渡された紙袋には制服が一式と小さな包み。なんだろう。まあいいか、待たせちゃ悪いしさっさと着替えてしまおう。