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『エビとアヒルとフカのヒレとキノコの料理』って結局何だったんだろう。エビチリ、北京ダック、フカヒレスープ……姿煮? キノコ料理はピンとこないな。キクラゲとかそれっぽいけど、
「この触手が気色悪いんじゃよなあ……」
あああ。
「やめてくださいよ……必死で現実逃避してるのに」
タイガーバームガーデン、例のアレが見えない位置。花京院の背中に隠れて、プチプチと細い何かが千切れるような大変いただけない音に耳を塞ぐ。あーあーわー、聞こえないったら聞こえない!
「ぜ、絶対動かないでね」
「そう言われると移動したくなるよね」
「ひどい!」
冗談かと思ったら本気だった。右に1歩、左へ3歩。悲鳴を我慢しながら合わせていたけれど、花京院が笑いを堪えるように肩を揺らし始めた辺りで諦めた。羊を呼び出しぎゅっと抱えて、じたばたする厚い羊毛に顔を埋める。謝られたって宥められたって知るもんか、もう何も信じられないわ!
(信じられないといえば、)
ポルナレフ、と名乗ったあの旅行者は敵のスタンド使いだった。同じテーブルでメニューを選んで、隣の席だったから料理を待つ間に話もしたのに。ああ、もう、ほんと。見分け方とかないのかしら。あと、しばらくスープは遠慮したい。
「おい」
コツンと小突かれ、もこもこの思考から現実に戻る。見上げると逆さまの空条。
「いつまで拗ねてやがる」
「あ、もう終わったの?」
「ああ」
「これで“肉の芽”がなくなって“にくめないヤツ”になったってわけじゃな!」
自分のダジャレで笑っているジョースターさんに空条は舌打ちを返す。
「……花京院、ミョウジ。腹立ってこねーか?」
ああいうダジャレってやつ、と身内を罵倒する空条に、私と花京院は顔を見合わせた。