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至高の肉まん、ひとくちめ。
「! ……あちっ」
さすが作りたて。まず中身までたどり着けないガードの熱さ、猫舌じゃなかったら堪能できたに違いない。
(くやしい)
包み紙を半分剥がして、何度か息を吹きかける。舌先で触れられる程に冷ましてから慎重に食べているけれど、お店の人、誤解しないでください。日本人みんなが熱いの苦手な訳じゃないんです。
「ん、美味しい」
やっぱり本場のそれは格別だ。さっき食べた蒸しパンといい、中華料理は口に合うものが多い気がする。麻婆豆腐とか、日本でも食べられてるし。
「不時着したのが香港でよかったね」
隣に佇む羊が呆れたように片目を閉じた。まあ言いたいことは分からなくもない。さっさと待ち合わせ先の中華飯店に行けとか、そんな感じだろう。最後の欠片も完食したし、そろそろ自由行動も終わりにしよう。
「?」
ゴミ箱の近く、路地裏から出てきた人に進路を塞がれる。厚手のコートに嫌な雰囲気、これは、もしかすると。
「金目のモン置いてきな」
「!」
やっぱりカツアゲだ! どうしよう、羊もいなくなってるし、できれば穏便に済ませたい。
「……い、今は手持ちが……」
散々食べ歩きをしておいて、こんな言い逃れは我ながらどうかと。コートの人をちらりと伺う。だめですか?
「……あ、あんた」
う、怒ってる。
「ナマエさん、か?」
「えっ」
「ひいい! やっぱりそうだ!」
「あ、あの」
「すす、スイマセンでしたァーっ!」
どういう訳だか私を知っているらしいその人は、もの凄いスピードでに人混みの中へと消えてしまった。一体なんだったんだろう。私、初対面なんだけど。
「……あー、『迷い子羊』?」
気だるそうな欠伸は返事の代わり。
「心当たりがあるんじゃないの?」
私を無視して歩き出す。何だかなあ、私のスタンドのはずなのに、この通じ合ってない感じ。確かにこんなやり取りしてないで、いい加減に集合場所へ……とは思うけど。ちょっと酷いような。気のせい?
「あ、あのお店」
なんだ、案外近くまで来てたのか。時間的にここでお昼かな。観光客っぽい人も来ているし、これは期待できそうだ。
ところで今の――ヨーロッパ系の人かしら、ずいぶん印象に残る髪型だったなあ。ああいうのが流行ってる国もあるんだろうか。世界って不思議だ。