12


 肉の芽といい『灰の塔』といい、そんなにグロテスクなネタが好きなのか。過ぎ去ったはずの形容し難い鳴き声は、耳の奥までエコーする。

「おっと」

 ふらついた足に首を傾げる。ビー玉を乱射しただけの戦闘に怪我はない。短時間で何人も殺される様子を見たものだから、無意識に怖じ気づいたのか。出発早々、と呆れそうになったところでようやく異変に気付く。
 傾いているんだ。飛行機が。

「お、お客様。そちらはコクピットですので、」
「知っている!」

 乗務員の制止を振り切って、ジョースターさんが立ち入り禁止の通路に消えた。続く空条達に遅れまいと傾斜のかかった床を蹴る。乗務員を支える花京院の横をすり抜けて、

「む」

 空条の背中にぶつかった。

「は、ごめん空条」

 でも止まるなら止まるって、言ってくれてもよかったのよ。

「どうだったの」
「やられた。あのクワガタ野郎、先に」

 舌打ちをする彼の前に何があるのか、簡単に想像できる。

「……自動操縦装置、とかは」
「破壊されている」

 ジョースターさんの言葉で天井を仰いだ。ああ、定石。


**

 敵だったそれをなるべく見ないように、思考を窓の外へと放り出す。 最後に聞いたアナウンスは何だっけ。エジプトまで一万キロだとあれは言ったけど、本当だろうか。

(一万キロってどのくらい?)

「しかし承太郎。これでわしゃ3度目だぞ」

 操縦桿を握ったジョースターさんはひとりごちる。

「人生で3回も飛行機で墜落するなんて、そんな奴あるかなぁ」


「……」

「2度とテメーとは一緒に乗らねえ」



 計器を操作する音が支配する、とても言葉にはできない空気。ビー玉の数だけウールの減った羊が、苛立ったように蹄を鳴らした。






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