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肉の芽といい『灰の塔』といい、そんなにグロテスクなネタが好きなのか。過ぎ去ったはずの形容し難い鳴き声は、耳の奥までエコーする。
「おっと」
ふらついた足に首を傾げる。ビー玉を乱射しただけの戦闘に怪我はない。短時間で何人も殺される様子を見たものだから、無意識に怖じ気づいたのか。出発早々、と呆れそうになったところでようやく異変に気付く。
傾いているんだ。飛行機が。
「お、お客様。そちらはコクピットですので、」
「知っている!」
乗務員の制止を振り切って、ジョースターさんが立ち入り禁止の通路に消えた。続く空条達に遅れまいと傾斜のかかった床を蹴る。乗務員を支える花京院の横をすり抜けて、
「む」
空条の背中にぶつかった。
「は、ごめん空条」
でも止まるなら止まるって、言ってくれてもよかったのよ。
「どうだったの」
「やられた。あのクワガタ野郎、先に」
舌打ちをする彼の前に何があるのか、簡単に想像できる。
「……自動操縦装置、とかは」
「破壊されている」
ジョースターさんの言葉で天井を仰いだ。ああ、定石。
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敵だったそれをなるべく見ないように、思考を窓の外へと放り出す。 最後に聞いたアナウンスは何だっけ。エジプトまで一万キロだとあれは言ったけど、本当だろうか。
(一万キロってどのくらい?)
「しかし承太郎。これでわしゃ3度目だぞ」
操縦桿を握ったジョースターさんはひとりごちる。
「人生で3回も飛行機で墜落するなんて、そんな奴あるかなぁ」
「……」
「2度とテメーとは一緒に乗らねえ」
計器を操作する音が支配する、とても言葉にはできない空気。ビー玉の数だけウールの減った羊が、苛立ったように蹄を鳴らした。