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「……あ、」

 藍の空に雲は薄墨、途切れた先に見えた月。寝起きには眩しすぎたようで、ちらちらと明滅し始めた目を擦る。
 わあすごい、機上の月はこんなに大きいのね。みたいな感想を持つものだと、思っていたけれど。

(大して変わらないような気がする)

 そもそも私は地上から見える月のサイズだなんて覚えていないのだから、違いなんてあったところで分からない。世の中って世知辛いね。

「落ちたぜ」

 寄越されたのはブランケット。ずり落ちるそれにも気付かずに、すっかり外の景色に夢中にだったらしい。

「ありがと」

 私がブランケットでぐるぐる巻きになる様子を見届けて、空条は外の景色に視線を移した。
 鳴り続けるエンジン音、控えめなアナウンス。点滅するデジタル時計が示しているのはどこの時間だろう。他のみんなはもう、寝てしまったんだろうか。

「月も綺麗なんだけど」

 誰の邪魔にもならないよう、声をひそめる。

「雲が、面白くて」

 崩した綿菓子の塊が無音で横切るのを見送って、思い出したように続きを話す。

「ああ、ほら。あれみたいな形は無いのかな、私のスタンド。……えっと。“すと”、」
「“迷い子羊”」
「そうそれ。“すとれいしーぷ”」

 復唱するのは羊自らボードに記したスタンド名。名前ならあるから付け直さなくていいのよと主張するのは構わないけど、果たして私をひっぱたく意味があったのか。

「無いねえ、そんな雲。
 ――ああ、ごめん。さっきのはちょっと呼んでみただけだから」

 脇から顔を出す羊に謝ると、迷惑そうな表情で消えられた。それでも正式名称で呼ばれて満足なのか、言うことくらいは聞いてくれる。

「足引っ張らないように頑張るよ」
「……」

 空条は眉間にシワを寄せたまま動かない。別に、無視されたって悔しくなんか。


「気をつけろ」

 斜め前のジョースターさんが身体を起こす気配。起きてたんだ。

「“見られた”感覚があった……」

 ああ、と空条が頷く。

「見られた、って」

 いや、聞くまでもない。きっとこれから会いに行く“彼”。
 ブランケットの端を、羽音が掠める。






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