10
自分のではない手のひらが、肩に触れる。
「空条」
「……面倒なことに巻き込んじまったな。
すまねー、ミョウジ」
「あ。う、うん……」
嫌になったら、いつでも言え。そう付け加えて、空条の手は静かに離れる。花京院の真似じゃないけれど、不思議な気持ちだ。必要とされて嬉しいと思う反面、不安もある。でも今の私には、そんなことを気にする余裕なんてない。
さっきの発言は、なんだ。
声はまさしく“私”だった。だけど当の本人が悩んでいる最中なのに、口だけが勝手に宣言するだなんて有り得ない。
「ナマエ、君のスタンドにも名前をつけよう」
アヴドゥルさんがカードの束を取り出す。
「タロットだ。無造作に選んだ札は君の運命の暗示でもあり、そしてスタンド能力の暗示でもある。
――さあ、1枚引いてくれ」
ジョースターさんや空条に「今の私の声は私の本意じゃない」だなんて、言える訳がない。それこそ私の本意じゃない。こうなったからには。
「とことん付き合ってやるんだから……
ッ!」
カードに伸ばした手は、ぴしゃりと叩かれた。
「え、え?」
目の前には“私”がもう1人。
「ナマエが2人……?」
「DIOの刺客かッ!」
「……おい」
殺気立つ空気の中、空条が溜め息をついた。
「そいつはミョウジのスタンドだ」
「えっ」
私が“私”を見つめると、“私”も同じように私を……ああ、やめよう。こんがらがってきた。とにかく私と彼女とで唯一違う、
「何となく見覚えのある緑の目でピンときた」
そういうことにしよう。
「ところであんた、何か用でもあるの?」
彼女は待ってましたと言わんばかりに頷くと、どこからか取り出したボードに文字をしたためる。まいったなあ、字の汚さまでそっくりだ。