09
「い……痛い」
空条邸にお邪魔して2日目の私は、部屋の端で頭を抱えていた。
ひどい夢だ。怖い顔をした空条に捕まって、必殺パンチを食らいそうになった。夢の通りに勢いよく頭を動かしたら、その先に壁があっただけの話。シンプルだけど凄まじいダメージだった。未だに頭がガンガンする。ちょっとハゲたかもしれない。
「む……あれ、もうこんな時間?」
腕時計の数字はいつもの起床時間をとっくに過ぎていた。こんなところで悶えている場合じゃない!
「ほら、起きて」
布団たためないでしょーと揺らしても、羊はL字の体勢で熟睡したまま。諦めた私は布団の下から目覚まし時計を回収し、身支度に取りかかる。
「わ」
廊下に出て最初の角でアヴドゥルさんとぶつかった。
「ああ、おはようナマエ」
「ご、ごめんなさい、寝坊しちゃって」
「いや……丁度ナマエを呼びに行くところだったんだ」
「私を?」
「とにかく来てくれ」
――ジョースター家の血統とスタンドの関係は昨夜聞いたかな?
アヴドゥルさんの後を早足で追いかけながら、私は短く答えた。
「100年前から蘇ったDIOの、魂の呪縛で。ジョースター家のほとんどに発現するものだと」
例外はホリィさんだ。ジョースターさんや空条にスタンドが発現する一方で異常が見られない理由は、彼女の穏やかな性格にある、と。
「だが、我々は間違っていた」
「それって。まさか」
開けられた扉の向こうには空条邸にいるみんなと、ベッドに寝かされたホリィさんの姿があった。
「ホリィさん……!」
「ナマエか……」
眠るホリィさんの手を、ジョースターさんはきつく握り締めていた。
「……わしらはエジプトに向かう。
DIOを殺して、奴の呪縛を解かねば」
「解かなきゃ、助からないんですか」
無言で俯くジョースターさんの代わりに、アヴドゥルさんが頷く。
「強要する権利はない。しかし……今の我々にはスタンド使いが必要だ」
「ナマエの力を貸してほしい」
「私が?」
花京院の言葉に戸惑う。
「わ、私……」
「私、行きます」
静かな部屋に、私の声が木霊した。