07
ジョセフさんとアヴドゥルさんが難しい話をしながら出て行って、置いてけぼりにされた私はひとり和室の角で丸くなった。ひとりじゃないや、ふたりだ。花京院くんと一緒。寝てるけど。
空条は“肉の芽”だとか呼ばれるエキセントリックなアレを撤去した後から帰って来ない。すごかったなあ、海月の触手みたいなのが、腕の中に……うええ。
夢に出られると困るから、急いで別のイメージを起こす。羊が1匹、
(思えばあれが始まりだった)
スタンドとか、DIO、だとか。話の“さわり”は聞いたけど、まるでファンタジーかSF小説の類だとしか思えない。空条は自分の意志で出してたけど、あの羊は勝手に出てくるし。呼んでも来ないし。どこをほっつき歩いてるんだろう。
「……ミョウジさん」
ぽつりと花京院くんが呟く。
「怖いかい?」
「……起きてたんだ」
おはよう、と挨拶をしてお昼を過ぎていることに気づいたけれど、花京院くんは上体を起こしながら同じように返してくれた。
「もう平気なの?」
「お陰様でね」
花京院くんはガーゼと包帯で保護された額に触れる。
「不思議な気持ちだ。殺されると思ってたのに」
「保健室では私もそう思ったよ」
「……あー。その件は、」
「いや、私じゃなくて」
あなたが、と花京院くんを指すと苦笑された。
「あれは痛かったな」
「絶対手加減してなかったよね。木っ端微塵にならないのが不思議なくらい」
「はは、確かに君じゃ耐えられなさそうだ」
2人でひとしきり笑った後、また静かになった縁側越しに外を眺める。私の部屋より広い中庭。空条がこんな大きな家に住んでるなんて知らなかった。当たり前か。毎日同じ通学路で挨拶を交わす程度の付き合いで、相手の何が分かるわけでもない。
「花京院くんは、」
「あ、呼び捨てでいいよ」
「……花京院、は。怖くないの? その……」
「スタンドが?」
私が頷くと花京院は布団に視線を落とし、微笑んだ。
「私は生まれつきこうなんだ」
きっと答えに詰まる私を予想していたに違いない。何も言わなくていいよ、と笑う彼に、私ができることなんてなかった。
「ミョウジ」
障子の端から空条の顔が覗く。
「じじいが泊まってけ、だと」
「えっ、今日?」
「ああ。ミョウジの都合が良ければの話だが」
「あ、たぶん。ちょっと電話貸してくれる?」
「……こっちだ」
部屋を出る前に振り返る。
「花京院、私も呼び捨てでいいからね」
彼は目を丸くしてから、照れくさそうに笑った。
「分かったよ、ナマエ」
あれ、思ったより飛躍してる。まあいいか。