06
“降参するなら今のうち”と。いかにも許してやる雰囲気を醸し出しておきながら、血祭りにあげるってのは人道的にどうかと思う。
「今日はこのままフケるぜ」
空条が血だらけで気絶した花京院くんを背負う。
「ミョウジ、てめーも来い」
「えっ」
「じじいに会わせる」
ぐっと腕を引かれ、足がもつれた。ビー玉を踏むんじゃないかと足元を見るけれど、床にあるのは保健室を構成していた瓦礫ばかり。
「ま、待って」
「なんだ」
「なんだ、じゃなくて。なにが、」
どうなってるの、と詰め寄りそうになる自分を堪える。
「……ご、ごめん。気が動転、して」
無言で佇んでいた空条は私に向き直り、体をゆっくり屈めて視線を合わせた。
「てめーは女だ。
……急にこんなことになって、取り乱しちまうのも無理はねぇ」
切れた額から血が流れて、ぱたりと顎から滴り落ちる。
「だがな、ミョウジ。このままってワケにも、いかねェだろ」
「……そう、だよね」
躊躇いなんていらない。
「分かった。一緒に行く」
感情をぶつけて良い相手は空条じゃない。彼は花京院くんに攻撃された被害者みたいなもので、ビー玉を飛ばしたり、花京院くんを倒した途端に消えたりする羊の説明ができる訳じゃないのだから。
「その前に、ちょっといいかな」
痛かったら言ってねと断りを入れて、ハンカチで彼の血を拭う。
目を伏せた空条は何も言わない。よく学校の女子達を怒鳴るところを見ていたから少し、拍子抜け……しちゃったり。言わないけど。
「よし、綺麗になった」
半乾きの血が落ちる頃には、私の思考はすっかりいつも通りになっていた。今日受ける筈だった小テストは結局どうなっちゃうんだろうか。せめて追試があるといいなあ。