04
見えないと分かったら気楽なもので、学校に着いた頃には羊のことを半分忘れかけていた。羊もそんな私にどうという反応をする訳でもなく初めての場所を珍しがっていることだし、これはこれでいいんじゃないだろうか。
散策するのは自由だけど最低限、私の視界から外れないでほしいとだけ忠告しておこう。あんなのを沢山見てなきゃいけないんだから、羊飼いって大変な仕事に違いない。
「お、いたいた」
羊は保健室の前でぴたりと止まっていた。
「そんな所にいたら邪魔でしょうが。ほら……ん、重っ。
あんた少しは自分で動きなさいよ」
溜め息を吐いた私は、鉄臭さに口元を押さえる。
血、だろうか。場所が場所だけに不自然ではないけれど、少し、キツすぎるような――
羊はドアと私を交互に見る。……ああ、開けろと。確かに。
もし中で非常事態が起きているなら、人を呼ばなければ。
「失礼しま……、した」
非常事態だ。
最悪のタイミングだ。出くわしてしまった。
空条が……その、ちゅーしてるところに。しかも一瞬こっちを見たからバレてるとしか。どうしよう。「ヒューヒュー熱いねェ!」とでも言って誤魔化そうか、駄目だ。あの空条承太郎に同じことを言った生徒は塵ひとつ残らないという噂もある。あったような気がする。
とにかく帰ろう、まだ間に合う。そんな私の思考に反して扉は全く閉まらない――羊が挟まってる!
「……てめー、ミョウジか。
さっさと出てけ」
「い、言われなくたって……あ、こら!」
私の体を押しのけ、いつの間にか倒れている保健医を飛び越えた羊はメーメー鳴きながら空条の元へと駆ける。
「羊?」
「く、空条。見えるの?」
「ああ。
……まさかミョウジ、お前もスタンド使いなのか?」
「すた……え? なんだって?」
訝しげに私を睨む空条。の、後ろに浮かぶ“あれ”と“掴んでいるソレ”は、一体なんだろう。