隠者、都市に隠る
衝撃は強化ガラスを伝わって、防ぐ重心は後方へ。小雨に濡れた足場を離れ、投げ出された足は中空。
「!」
遅れて「うえっ」と絞る声。頭に血が昇り、体内に浮いた“なかみ”が片寄った。ぐらぐらしながら吊られた足、もう片側のひざを揃え、一応スカートも押さえよう。
「……すいませーん」
痺れそうな足首を動かして合図を送り、不安定な体は少しずつ上へ。シュテルンビルト最大のタワー、上下逆でも壮観な景色がたいへんすばらしいですね。
「は。ありがとう、ございます」
引き上げられた体を持ち上げ、吊られてツりそうだった足をさする。本当に駄目かと思った。
「どうってことないわい」
にひひ、と年甲斐もない笑みを浮かべるのはヒーロー最年長、厳つい体格に装甲が似合うハーミットパープル氏。プロもそうだけどベテランはもっと格が違った。まずこの得体のしれないオーラ、同業者のピンチをも救うヒーローっぷりといい、氏と比べたら私なんかまるで――まあ、自虐はこの際。
「あの、」
心配すべきは落ちた後。豊富な重火器でタワーを占拠したグループの行方と、その目的は。矢継ぎ早に問う私に氏は嫌な顔ひとつせず、髭をなでつけるような仕草で頭部のマスクに手をやった。
「あやつらなら若いのに任せたわい。今頃全員牢屋行き……いや、その前に病院送りじゃろう」
快活な笑い声に肩をすくめてみせるが、気分は晴れない。
「ごめんなさい」
ヒーローの手助けでもポイントは入るが、犯人逮捕に比べれば雀の涙。市民のために動く自分が仲間の足を引っ張っては。
「なに、気にすることはない。
ヒーローにはそういう経験も必要じゃからのォ」
「……はい」
「これからじゃよ、ナマエちゃん」
頭を撫でる大きな手。に、頑張りますと固く誓った。
(世のため人のため)
「わしは白よりピンクが似合うと思うんじゃが」
「やめてください訴えますよ」