優等生はいかにして海に溺れるか


それなりの優等生と自負している私だけど、こうやって午後の気怠い授業を抜け出すことも悪くないと思った。
隣で煙草を燻らす承太郎にもたれ掛かり、ぼんやりと流れていく雲を目で追って。なんだかあの雲の形が動物みたいだ、食べ物みたいだ、そんな事を考える。そのうちに必然と重くなる瞼と戦っていると、承太郎が私の体をべりっと剥がして、それから。

重なりあった唇は承太郎が愛用する煙草の苦い味がした。あまりにも突然の出来事に、私は目をぱちぱちと動かすことしか出来ずに固まっていた。すると承太郎はそれをいいことに再び唇を重ね合わせる。そこではっとした私の頭の中を徐々に羞恥心というものが支配してきて、思わず目の前の制服を掴み抵抗した。

「なっ…何よ急に…っ」
「いちいちお前に許可取れってか?」
「そういう意味じゃ、」
「なら目ェ閉じてろ」

伏せていた顎をぐいと、少々乱暴に上へ向かせられる。そこに視線の逃げ場なんてものはない。目の前の異国の瞳にきつく捕えられ、私は睫毛が震えるのを感じながら恐る恐る瞳を閉じた。

「ふ……、」

どこからかカツカツと黒板に文字が走る音が風に流れてきて、妙に冷静な頭をすり抜けていく。今日はいけないことばかりしている、私。学校の授業をサボって、立入禁止の屋上へ来て、承太郎とこうしてキスをして。背徳感を滲ませながらも私はこの恋人を振り払うことが出来ない。
確かめるように、甘くキスを繰り返す。触れ合っては離れ、感触を忘れぬうちにまた触れて。こっちに来いと言わんばかりに腰を引き寄せられれば、更に縮まる距離。思考は落ち着いているのになぜだか体は正反対で、まるで承太郎の熱を奪うかのように熱くなっていく。たぶん今の私の顔は真っ赤になっているのだろう。だって学校でこんなこと、恥ずかしい。

「…う、んん」

この長身に合わせて上を向いているのが少しばかり辛くなってきた頃、同じように制服を掴んで訴えかけてみるが承太郎は一向に離れようとしない。それどころか行為はどんどん深いものになって、ぬるりとした舌が入り込んできたときには無意識のうちに肩がびくりと跳ねてしまった。逃れようにも相手の力量は眼に見えているし、何より彼は最強のスタンドを持っているのだから何食わぬ顔で時を止めたりするのだろう。あっさりと舌を絡め取られ蹂躙され、程なくぼんやりと霞む思考。頭からは授業のことも学校のことも消え去って、ただ承太郎でいっぱいになる。

「じょ、たろ…」
「…んだよ」
「すこし、待、っ…!」

やっと解放されて一息ついたのも束の間。今度は後頭部を支えるように手を回され、そうして二つの影は重なった。いつもは冷静に言葉を紡いでいる唇が、今は私の言葉すら飲み込んでしまうほど激情に駆られている。その事実がまた私をどこかおかしくさせて、止めさせることをどこと無く考えながらもされるがままに体を預けてしまうのだ。

「――ナマエ」

互いの唇が触れたままに、承太郎は掠れた声で私を呼んだ。普段は名前なんか呼ばないくせに。こういう時に限って、ひどい。見透かされているようで悔しくて恥ずかしくて、シンプルなピアスを飾った耳を引っ張ってやった。そうすれば痛てーな、なんてもういつものように涼しい口調で言ってのけるものだからまた悔しくなる。
二人の間に授業の終わりを告げるチャイム音が響いた。

「…次の授業、始まっちゃう」
「優等生は忙しいな」
「承太郎はどうするの?」

返事は無い。代わりに私を抱き寄せ、噛み付くようなキスを一回。
それなりの優等生と自負していた私だけど、このままだと次の授業もサボってしまいそうだ。




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「ゆめぎわ」相互記念にユエ様より頂きました、3部承太郎でキスしちゃうお話。
うああ!承太郎!承太郎!!じょう……ふぅ。キスって本当に素晴らしい愛情表現ですよね。私も授業サボって屋上でちゅーしたい。承太郎と。

ユエ様ありがとうございました、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!






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