トワイライト


 潮騒を聞きながら海鳥と戯れ黄昏る、そんな女の人に憧れた時期もありました。現実がこんなに過酷だなんて、誰が予想できただろう!

「せ、先輩!」

 真っ白な羽音に負けないように、私は声を張り上げる。

「笑ってないで助けてくださ、わっ!」

 頭の上にもう1羽。情けなく慌てる私を見かねたのか、花京院先輩が群がる彼らを追い立てた。
 晴天にウミネコ。素敵な組み合わせだとは思うけど、数が多すぎるのは。

「危うくトラウマになりそうでした」
「ごめんごめん……楽しそうで、つい」

 長い指先で、ほつれた髪を整えられる。

「ほら。これで大丈夫」
「あ、ありがとうございます」
「ナマエ」

 後方には空条先輩。片手に収まるカメラには、ピンクの刺繍入りストラップ。

「なかなか面白ぇ眺めだったぜ」
「まさか……先輩、今の撮ったんじゃ!」
「さあな」
「ええ……も、もう先輩には預けません!」

 初めて買った自分用のカメラ。記念すべき1枚目がウミネコにたかられる私自身だなんて、恥ずかしくて堪えられない。

「返してください!」
「欲しけりゃ自分で取れ」

 1ミリたりとも返してくれる気はないらしい。空条先輩は只でさえ身長が高いのに、そんなに掲げられたら届くわけがない。

「そういうのを、意地悪って、言うんですよっ」

 何度かジャンプして、ようやくストラップを掴む。

「やった! 、あ」

 着地した片足がバランスを崩す。
 ぐらり、
 傾いだ体が抱え込まれる。

「空条せんぱい」

 エメラルドの瞳が申し訳なさそうな色に染まって、両足を気遣うように起こされる。

「だめじゃないか承太郎」

 怪我でもしたら大変だよ、と花京院先輩が口を尖らせて、空条先輩は帽子のつばを引く。

「……すまん、やりすぎた」
「女の子はもっと丁寧に扱ってあげないと。
 ……さ、ナマエ。僕の手をどうぞ」

 私は少し躊躇って、花京院先輩の手を握る。
 反対の手はもちろん、空条先輩へ。

「ナマエ」
「先輩も一緒がいいです。
 私、気にしてませんから」

 意地悪されるのも仲良しの証拠です、と胸を張ると、先輩達に笑われた。おかしいな、間違ってはいないと思うけど。



 右手に花京院先輩の綺麗な手、左手に空条先輩の大きな手。水平線には沈む太陽。

「なんか、感動的ですね」
「撮らなくていいのか?」

 空条先輩の問いに首を振る。

「手が塞がってるから、しょうがないんです。
 また今度にしましょう」
「あれ、僕らも強制参加なんだ」

 くすりと笑う花京院先輩に、もちろんですよと頷いた。

「写真はまた今度にしますから、」

 温かい2人の手が嬉しくて、私は両腕を前後に振った。
 もう少しだけ、このままでいさせてくださいね。





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「Star Dust」桃谷様へ、相互記念品として送らせて頂きます。
承太郎さんと典明さんのお出かけ話ということで、ちょっと港まで出て頂きました。ゲーセンと悩んだ結果書き直したのですが、やはりこちらにして正解だったかと!(残念なのに変わりはないのですが)
修正等ありましたら受付させて頂きます。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。






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