スイッチ
男友達と恋愛関係になることで、失われるものなんてない。変わるのは肩書きだけで、新たに加わるのが少し過剰なスキンシップとか、キスとか――あるいはその先、だったりとか。そうやって色がついた友人関係の延長上だと思うのは、間違いだろうか。少なくとも今は、うまく噛み合っていないのが分かる。
「ねえ、怒ってる?」
承太郎は私に背中を向けて座っていた。怒ってねぇ、とぶっきらぼうな返事をするだけで、目も合わせてくれない。困ったなあ。拗ねられてしまった。
たぶん、あれだ。花京院やポルナレフと出かけた時に扱いが悪かったのが原因だ。決して悪くはなかったけれど、少なくとも恋人扱いはしなかった。できなかった、の方が正しいか。仲間のみんなには秘密にしようって、2人で約束したのだから。
「ナマエ」
見上げた承太郎が膝を叩く。「座れ」の合図。私は彼と向かい合わせになるように、足の間に腰掛ける。
「いつもごめんね」
「気にすんな」
撫でられる頬がくすぐったい。目を細めたら同じようにして微笑む承太郎の顔が見えて、なんだか嬉しくなった私は彼の指先に何度もキスをする。
友達モードで過ごすのも好きだけど、この時間はもっと好きだ。普段は絶対見せない表情。髪を梳くように撫でる仕草はこんな時だけだって、承太郎は自分で気がついているのだろうか。
「承太郎にもそんな時があるのね」
「ん」
「ちゃんと聞いてる?」
「ああ」
だめだ、すっかり生返事。こうなると止まらないのは学習済みで。
「ナマエ……」
「ん、好きだよ。私も」
ゆっくりと迫る緑の瞳は、いつもよりずっと色っぽい。
(“追加要素”の時間)