グランブルーの底で


「あれ、承太郎? 珍しいね」

美術室の片隅、扉の音に気付いたエプロン姿のナマエが振り返る。

「テメーこそ授業中だろうが。いいのか?」
「自習だったから抜けて来ちゃった」

どうぞ!と寄せられた椅子に腰掛け、キャンバスを眺める。

「天気が悪いとサボる場所もなくて退屈でしょ」
「まァな。
……ナマエ、また海描いてんのか」
「そ。今度は深海にしようと思って」

海を描かせてナマエに勝てる奴はいない、と思う。サンセットビーチを映した絵が大会で高い評価を得たと聞いたこともあるから、自分の考えは正しいはずだ。

「深海に、ね……したいのは山々なんだけど」
「どうした?」

行き詰まっちゃった、とナマエは肩を落とす。

「“これぞ深海”って感じにならないのよね」
「お前深海なんて見たことあんのか」
「ない。
……あ、だから上手くいかないのか」
「やれやれ……シャキッとしろ、ナマエ。知らねェなら想像すりゃあいいだろうが。
お前の海、俺は嫌いじゃねぇぜ」
「ほんと?
じゃ、じゃあさ承太郎。ちょっと聞きたいんだけど」

差し出されたケースの中身はアルミチューブの青、あお。

「次に使う色、どれがいいかな」

選ぶもなにも一択だろうと呆れそうになったが、名前も番号もバラバラに印刷されたラベルに気付く。全部、同じようで違うもの。

「多すぎてようわからん」
「いいから適当に。お好きなのをどうぞ」
「……チッ、ナマエも選べよ」
「私も? えっと、じゃあ

――あっ」

伸ばした指先が触れ合って、驚いたナマエの腕からケースが傾ぐ。
宙に散らばる青の中からひとつ。星の白金で掴み取って渡してやると、彼女は目を丸くした。

「これか?」
「それ。……水で薄めたら綺麗な色になると、思って」
「奇遇だな。俺もコイツが気になった」

差し出された手首を掴み、細い腰を引き寄せる。

「! あの、承太郎? ……えのぐ、」
「お前の海は嫌いじゃねェ、が……本物には遠く及ばねぇな」
「え、……何? それって、どういう」
「ずっと見てた……作品を、じゃねぇぜ」

絵を描くお前に惚れてたんだ、と呟いて、真っ赤なナマエにキスをした。


(透ける青に君を描いた)






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