ルタバガ1031


 花京院が淹れる紅茶より美味いものをおれは知らない。ソファに寝転び用もなく天井を眺めては時折思い出したかのように膝にじゃれてくるナマエも同じ考えでいるようで、程なく運ばれてきたカップの音と茶葉の匂いを嗅ぎ取って身を起こすタイミングだとかがまったく同じなんだから、とポットを傾ける花京院が笑うところまで前回とまったく代わり映えしない絶対の時間が過ぎてゆく。

「幸せだなあ」

 縦に積まれた角砂糖は音もなく崩れる。

「なんて幸せなんだろう」

 最高に甘いであろう紅茶をかき混ぜながら、誰にともなくナマエが呟く。

「毎日こうして一緒に過ごせたらいいのに」
「ずいぶん酷いワガママだね」
「ジョークにしちゃあキツすぎるぜ」

 抗議の声が上がるのは、ナマエを挟んだ向こうに座る友人に賛同した直後のこと。そこまで言う必要はないでしょう、などと何に対して怒っているのか皆目見当もつかない台詞を聞き流し、紅茶の味に集中する。

「うめぇ」
「それは良かった」

 早くもおかわりを所望したナマエのカップが満たされる。

「この世のものとは思えない味がするだろう?」
「死に損ないが、縁起でもねーこと言いやがる」
「酷いなあ。喜んでるんだけど、これでも――ナマエ」
「勿論、そう思ってるよ」
「そうじゃなくて……はあ、君ってひとは」
「あ」

 首根っこを掴まれたナマエがばりりと丸ごと剥がされる。「化けて出てやる」などと嘆く姿に罪悪感を覚え、軽くなった方の手で撫でてやる。

「もう十分遊んで貰ったろ」
「久しぶりなんだし、もう少しくらい」
「承太郎は忙しいって、」
「知ってるよ。また帰っちゃうんでしょう?
 いいなあ、アメリカ」

 ポケットを探り、そこではじめて煙草を辞めて久しいことを思い出す。何処かで配られた飴玉がひとつあるだけだ。

「歓迎パーティーならいつでも準備はできてるぜ」
「意地悪」

 言葉こそ非難めいてはいるが、表情はヒトをからかうナマエ特有のそれだった。く、くと喉を鳴らすようにして、やつはひどく意地の悪い笑みを浮かべる。

「今度はいつ会えるの?」
「盆の時期には帰る」
「残念だなあ」
「帰省しろ」
「野菜の馬は性に合わなくて」
 親不孝なんて10年早いと呟いて、冷めた紅茶を一人で空けた。
 もうすぐ日付が変わる。




(仮装要らずは便利でいいねとふたりは笑う)






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