罫線の恋
エジプトから帰国した友人に残ったのは、両目とお腹の傷跡と、おおよそ50日分の補修課題。
「中東50日の旅かー」
「……ナマエも行きたかった?」
「そりゃあ、板書眺めてるよりよっぽど楽しそうだもの。
素敵じゃない。ランプで魔人出したりだとか」
ノートのページを1枚捲って、典明くんは苦笑した。
「まさか『願いごとを増やして』って言うつもりじゃあないだろうね」
「あれ、バレてる。せっかく典明くんの代わりに授業ノート、写したげようと思ったのに」
「このくらい自分の力でやらないとね。
それに、」
ぺらりと典明くんは私のノートを捲る。
「確かに量はあるけど。ナマエが一生懸命まとめてくれたから、とっても分かりやすいよ」
笑顔のまま、指先で叩いた公式の上には普段は書かない『テストに出る!!』の大きな文字。
退屈な授業も真面目に聞いて、注釈まみれの公式に付け足した印。ずっと気になっていた彼のためならば、と努力したことに気付いてもらえて嬉しい反面、いざ指摘されるととんでもなく恥ずかしい。
「からかわないで……誰だってできるじゃない、このくらい」
「ねえ、ナマエ」
思わず俯いてしまった私の耳に届くのは、典明くんの低い声。
「誰にでも、こうやって親切にしてるの?」
「ん。ま、まあ。友達、には……それなりに」
嗚呼、今回は特別に張り切りました、だなんて言えない。
「……ちょっと、妬けるかも」
「えっ」
「あ、いや……ただ僕は、その
――もし。迷惑じゃ、なければ」
(期待してもいいですか?)