晴天ミサイル


 コインランドリーなんて普段は素通りしてしまうのだけど、海外のそれとなれば事情は違う。特に生来一度たりとも国境を踏んだことのなかった私にとって、旅先でメイド・イン・ジャパンを見かけたときの感動といったら!

「ん。よい、しょ」

 あまりにも有頂天になっていたものだから、水気を帯びた衣類がどれだけ重くなるかだなんて考えもしなかった。みんなの分も合わせた時点でかさばるだろうとは思ったけれど、そのまま台車のひとつでも借りてくればよかった。かといって引き返すのも面倒で、カゴを持つ手に力を込めてそろりそろりと廊下を歩く。宿のフロントで借りた鍵はポケット、角を曲がると人影。

「わっ」
「おっ、と」

 止まりきれずに衝突した、にしては小さい洗濯物の揺れに息をつく。セーフ、二次災害は避けられた。

「ごめんなさい」
「いや。僕の方こそ」

 ん、この声は。確認する間もなくカゴを奪われ、広くなった視界によく知る人。

「花京院!」
「ああ、やっぱりナマエだ。
 探してたんだよ、手伝おうと思って」

 洗いものを集めようと声をかけた時は、確か読書中だったはず。中断させてしまったのなら申し訳ないと思うけど。

「ありがと、じゃあそれを」

 お言葉に甘えて「運んでください」と頭を下げた。きっと自力では、この先の階段を上れなかったに違いない。
 最上階を更に上へ。解錠した古い扉を開け、満ちる光に目を細める。

「絶好の洗濯日和だね」
「でしょう?」

 雲ひとつない空に細いロープが飛び交った。スタンドが使えたらなあ、物理的に無理だけど、『法皇の緑』なら大きなシーツがたくさん干せそうね。

「割と良いアイデアだと思うんだけど」
「それはちょっと」
「だよねー」

 小さいけれど清潔なバケツに洗濯カゴからひと抱え。

「シャツとタオルは私が干すから、後はお願いしてもいい?」
「うん、任せて」

 よかった、この位なら大丈夫だ。ズボンは運ぶ途中で引きずってしまうから苦手で。自分ならまだしも、他の人のだといただけない。どれも丈が長いし。
 そしてなにより。みんなが気にしていないのか、私が過剰なのかは知らないけれど、ちょっと。その、下着とか。平気なんだろうか。まさか全部まとめて頼まれるなんて思わなかったし、私は自分で洗うだけだから――

「あ!」

 ひときわ強い風が吹いて、並んだシャツと私のスカートがはためく。

「ぱんつ!」

 ダッシュ一歩目、がたんとバケツに躓いた。

「ナマエ?」
「ちょっと、ごめんね!」

 転がるように洗濯カゴへと突っ込んで、中を探ると慣れた感触。

「あ、あった……
 はっ!」

 勢いに任せてソレを掲げてしまった。私の、後ろには。

「……見た?」
「み、見てない!」

 前髪を揺らして花京院は背を向ける。真偽のほどは置いておこう。彼にはこのまま向こうを見ていただいて、お揃いの下着に別の柄、それから――あれ。

「1枚足りない」
「……『番町皿屋敷』?」
「違う、あ。ま、まだ振り返らないで!」

 上着のポケットに一式押し込んで、フェンスに走る。さっきの強風、風下はこちら側だったはず。

「うそ!」

 案の定飛ばされていたナンバーツー、いい話と悪い話がひとつずつ。いい話、玄関脇の低い植木に落ちたので通行人には見えません。悪い話、

「じょ。
 承太郎ーっ! ストップ! ストーップ!」

 空条承太郎のお帰りです。考えごとでもしているのか、呼びかけに全く気付かない。ルートを予想、このまま進めば間違いなく――だめだ、無力だ。このまま終わりを待つだけなんて、あーあ、いっそ再起不能になりたい。爆弾でも落ちて来ないかな。

「……あー。えっと、ナマエ」
「なに」

 これでも私は手すりに頭を打ちつけるので忙しいんだ。手短にどうぞ。

「もし、君が気にしないのなら……
 僕のスタンドで拾おうか」
「それだ」

 焦る思考、締まる心臓。赤い額に痛む頭。まともな判断が戻るのは、彼が拾った後のこと。




(着弾点こちら/大至急!)





(こんなの履いてるんだ/可愛いなあ)






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