彼女は悪魔だ。それも、天使のような顔をした悪魔なのでとんでもなく質が悪い。具体的に、例えば今。彼女は俺のワイシャツを我が物顔で着込み、俺の隣で眠っている。問題なのは、彼女が身に纏っているのがそのワイシャツだけであるという事実と、堕らしくなく開いたボタン、そしてその柔らかい素足を俺の脚に絡ませていることである。 なんなら、昨晩、帰宅して、この格好でソファに眠る彼女を見つけた時の俺の気持ちを想像して欲しい。俺は色んな感情を抑え込んで眠った彼女をベッドへと運んだ。まあ確かに俺がソファで寝るという選択肢もなかった訳じゃあないが、そこはまあ誘惑に負けた。その場で襲わなかっただけ褒め称えて貰いたいくらいだ。そして目が覚めて、この状況である。 「……んー……」 更に悪いのは、彼女が半ば起きかけているためにために零すこの呻き声。言ってしまえばこんなのは拷問以外の何物でもなかった。これほど自分の忍耐力を試されることなんて他にないだろう。ああ、その白い首筋に噛み付きたい。 彼女がもぞもぞと頭を俺の二の腕に擦り付けると、その柔らかい胸も同時に俺の胸に押し付けられる。俺はごくりと唾を飲み、齢に見合わず若過ぎる自分の身体を呪った。すり寄ってくる彼女は猫みたいで確かに可愛いけれど、可愛いのだけれど、これがきっと可愛さ余って何とやらというやつなのだと思う。 「………あー…、やべ、」 朝ということも相俟ってやんわりと反応している自身を感じて頭を掻く。市民を守るヒーローも、性欲を前にすればただ一人の男でしかない。本当に、朝勃ちするような齢でもないのに、人間の身体というのはなんて本能的に出来ているのだろう。 少しだけ、なんて自分に言い訳して、スラックスの上から自身に触れる。そのまま焦らすように布の上からやんわりと揉むと簡単に硬度を増していった。無垢な顔ですやすやと眠る彼女を見ながら背徳感に身をやつす自分を最低だと思うのに、その手を止めることも出来ない。 「……ハル…、」 声になるかならないかくらいの音で彼女の名前を口にすると余計に興奮が高まった。ああ、俺の吐息がハルの肌に触れてしまっている。それなのに、俺は片手ではしたなく下半身を刺激し続けた。 「……、てつ、さん…?」 布越しの刺激では足りなくなり、ついに下着の中に手を忍ばせた時だった。彼女が薄っすらと瞳を開け、とろりとした目で此方を見ている。俺の顔を眺めながらぼんやりとしているところを見ると、俺が今何をしているのか気付いてはいないらしい。 高まっていた俺の興奮は彼女のその溶けた瞳と掠れた声を引き金にさらにある一線を越えた。寝ている女を犯すというのは例え相手が恋人だろうとあまりに倫理上咎められるが、寝惚けた彼女と睦み合うのは恋人同士の醍醐味であろうという勝手な倫理観により、俺の欲望はたった今正当化されたのである。俺は片手で自身を扱きながら、彼女の無防備な下半身へと手を伸ばした。ハルは俺の意図を理解したのか、戸惑ったような顔で俺のシャツを掴む。 「、ぇ、…虎徹さん、…?…なに、」 突然のことに状況が掴めないらしい彼女に答える余裕もなく、俺は彼女の下着を引き下げて秘部に触れた。核を刺激して彼女の快感を高めてからつぷりと中に指を入れ、掻き混ぜると、あっという間にくちくちといやらしい水音が聞こえてくる。今すぐにでも挿れてえけど、もう少し解さねえと、と思いながら中にあるいいところをずんずんと刺激してやると今まで堪えていたらしい可愛い喘ぎ声が漏れてきた。 「っ…ふ、…ぁ、…」 「…可愛いな、ハル」 「…ん、ん…っ、…ぁん」 「…さっき起きたばっかなのにこんなに感じてさあ…たまんねえ、」 さっきまですやすやと無邪気に寝ていたくせに、少し弄っただけでこんなに色っぽくなるハルに俺はますます興奮した。思うがまま囁くと、少し潤んだ瞳が此方を睨む。俺がこれ見よがしにコンドームの封を切ると、今度は頬を染めてまた彼女は俺を睨んだ。もう、そういうのも全部全部可愛いから、彼女がどんなに凶悪な悪魔だろうがなんだろうが、どうにでもして欲しいと思ってしまうんだ。 正しい目覚め方 20150730 |