一糸纏わぬ姿を好きな人に見下ろされるのは恥ずかしい。慣れとかそういう問題ではない、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。だからこそ早く何も考えられなくして欲しいのに、彼はそうしない。多分、確信犯だ。

「耳まで真っ赤になってるよ」

 どうしてこの人は、言われたくないと思っていることを的確に指摘してくるのだろうか。耳朶を指先で遊ばせているイルミの表情は、分かりづらいけれどもとても楽しそうだ。
 意地が悪いと睨み付けても真っ黒な瞳は爛々としたままで、彼が動じることはない。むしろ反抗的な態度は彼を更に喜ばせてしまったように見える。───全くこの男は、意地が悪ければ性格も歪んでいる。少しはキルアの可愛さを見習って欲しい。
 耳朶から耳の裏へと移動した指先にそこを擽られて、ぴくりと身体が縮こまる。そんな私を宥めるようにキスをしながら、彼は空いた片手でゆっくりと私の身体を撫でた。彼の指先には不思議な魔法がかかっているんじゃないかと思えるくらい、私の神経はどんどん過敏になっていく。

「何処も彼処も熱いね…子供みたいだ」
「…ん、…っい、るみ」
 
 しつこく指で中を解すイルミの服を掴んで強請ると、彼はちらりと私の顔を見てから埋め込んでいた指を引き抜いた。「力抜いて」と言って覆い被さってくる彼の髪がさらさらと肌を擽り、その絹のような黒髪の隙間から、真っ黒な瞳が見える。
 塗り潰されたような漆黒の奥で爆ぜている何かが、確かに彼の欲情を伝えてくる。それが分かると、彼の熱が移ったように私の身体も熱くなった。

「…きっつ…ぃ、…」
「ん…はっ、…ァ、」

 遠慮なしに私の中を押し開いていく彼に、どうにか力を抜こうと浅い呼吸を繰り返す。込み上げる独特の息苦しさと、得も言われぬ快楽。苦しいほど気持ち良かった。
 一度奥まで入り切ったかと思うとイルミは身体を倒して私を抱き込み、息の上がった私に頬を寄せて、そのまま身体を揺らした。角度が変わったことによって与えられる強い刺激に生理的な涙が滲む。

「んっ……ぁ、あ…ん、」
「……気持ちい?」

 顔を覗き込んでそう尋ねるイルミに、私はこくこくと頷いた。目尻を優しく拭われてじんと胸が熱くなる。私は堪らなくなり、イルミの首に腕を回した。それを合図に彼の律動が追い上げるような動きに変わる。イきそうだと訴えると、彼は分かっているとでもいうように短く頷いた。

「…っア、…んん…っ」
「…ハル…、」

 絶頂に伴う身体の痙攣が収まった頃、私に少し遅れて達したらしい彼は快感の残滓を味わうように何度かゆるゆると腰を振った。目を閉じて、身体の感覚に集中しているらしい彼の顔が色っぽい。こうしている彼はまるで暗殺などという物騒な話とは無縁の普通の男の人のようだ、と思いながら私はそれを眺める。
 少しして腰の動きが止まったかと思うと、ぱかりと目蓋が開いて目が合った。相変わらず吸い込まれそうなほど真っ黒な瞳に、私の顔が映る。彼はじっと此方を見つめ、何を言うでもなく、私が新たに零していたらしい涙をやはり優しい手つきで拭ってくれた。


満ちる月の胎動
20141105
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