そうやって堪えるように唇を噛み締めたり、薄く開いた瞳を潤ませたり、細い指で必死にシーツを掴んだり───なんてそんなのは全部、誘っているようにしか見えないんだよ。なあ、ハル。

「ハル…、力抜け」
「ん…ぁ、……は…っ」

 与えられた痛みと快楽、その両方に顔を歪ませているハルにほんの少しだけ同情をおぼえて律動をゆるめ、そう囁いてやると彼女はほっとしたように身体から力を抜いた。
 普段は言う事なんて聞きやしないくせに、ベッドではこうも容易く飼い慣らされていくハル。その従順さは、今この瞬間は彼女の身体を思うがままにしていいのだという歪んだ錯覚を起こさせた。

「っ、…ハル…、」
「…あ、…あっ、ん、んぁ…っ」

 程よく力の抜けた彼女に再び律動を開始すると、感じ入ったような声があがる。突き上げる度にびくりと跳ねる筋肉質の細い足を押さえつけてやれば、快楽を逃す術を失ったハルは浅い息を繰り返して小刻みに震えた。

「っ…ァ、…んぅ、っ…ぁん」
「イイのか、ハル…?…」
「ん、い…っ、気持ち、い、っ…あ、」

 酷い事をしている、と思う。何も知らない彼女を囲い込んで、本当なら知らなくてもいいような淫らな遊びを教え込み、その体を好きにしている。それがどんなに酷いことか、解ってやっているのだから余計に悪い。
 彼女を選択肢のないところまで追い詰めていることに対する僅かな罪悪感と、彼女の感覚全てを支配しているのが他でもない自分であるという歪んだ征服欲が綯い交ぜになって、肺の中で渦巻いていた。

「…、っ…く…」
「…っは、ぁ、ん…ッ」

 射精と同時にぽたりと彼女の胸に滴った汗が、びくびくと震える彼女の肌の上で揺れるのが可笑しかった。いい大人が、こんな幾つも歳下の女一人に夢中になって、執着して、───全くどうしようもない。
 粘膜の締め付けに逆らうように腰を引くと、ハルは、あ、と情けなく小さな声を洩らした。普段の凛とした姿からは想像もできないような様子で、くたりと力の抜けた肢体をしどけなくベッドに横たえている彼女を見て、俺は説明のつかないほど加虐的な気持ちになった。

「…っ、ぁ…だめ、四木さん、…もっと…」
「…安心しろ。…まだ、…これからだ、」

 頼りなく伸ばされた細い腕をシーツに押さえつけて、もう一度彼女の足を抱え直すと、ハルは濡れた瞳を揺らして俺を見上げた。ああ、この角度で見下ろす彼女の泣き顔も、随分と見慣れたものだ。


背徳が肺を腐らせる

20131223
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