「何か…邪魔、したか?」

 見張り台の上、ハルに酒を注いでもらいならそう問うと、彼女は一瞬何のことかという顔をしたがすぐに思い当たったのか、あー、と言って笑った。

「…ううん、普通に助かったよ」
「……そうか」

 そのあまりに明け透けな様子に流石の俺も眉毛を少し可哀想に思いながら、とりあえず頷いて、俺は彼女のグラスにも酒を注いでやった。
 一部始終を見たわけではないが、あれは結構まともに蹴りが入っていたということだけは分かる。そして、眉毛にその隙を作らせたのが他でもない俺であることも分かっている。まあ、別に悪いとは思ってないが。

「…あ、このお酒美味しい」

 うっとりとしたふうに笑うハルを見てから、俺は酒を含んだ。少し軽めだが、悪くはない。俺とハルは酒の好みが合う、いい飲み仲間だ。ハルは結構飲める方だし、武芸を嗜む者同士話も合う。最近まで彼女が作品作りに勤しんでいたため二人で飲むのは久しぶりだが、やはり彼女の作る空気は好ましい。

 俺は彼女が部屋に籠っていた間に試した鍛錬の話をして、今度体術の訓練に付き合ってくれと持ち掛けた。俺と彼女は戦い方が根本から異なるが、それでも彼女からは学べることが多々あるのだ。彼女は快く頷き、その代わりに長剣の使い方を教えてくれと言った。
 彼女の武器は小ぶりの剣が二本だ。磨かれた体術と共に長さの違うそれらから繰り出される剣戟は、正直敵には回したくない。避けるのが上手いんだ、こいつは。そして、思い切った攻撃の最中ほど敵が無防備であることを知っている―――とそこまで考えたところで俺はまた眉毛に同情した。

「…なあ…つまみが欲しくねェか」

 つまみを得るにはキッチンに赴かなければならないが、とりあえず俺は行きたくない。さっきのアレはまあ不可抗力だし、ハルも助かったと言ってはいるが、眉毛から見れば明らかに俺は邪魔者だったことだろう。
 何度も言うが別に悪いとは思っていない。ただ今、結構いい気分なので、わざわざそれを削がれるのも気が進まないのだ。

「…欲しい、けどキッチン行くならゾロが行ってね」
「あ?今俺が行ったら殺り合いになるに決まってんだろ」
「私が行ったらまた襲われるでしょう」

 それもそうだ。眉毛にハルが襲えるかどうかはまた別として、今はどちらが行っても暫く帰って来れなくなるというのは確かだろう。しかし、いくら酒が美味いとはいえ口寂しさは拭えなかったため、俺はむくむくと頭をもたげる好奇心に従って口寂しさを紛らわすことにした。

「…なァ…さっきのアレ、やっぱ襲われてたのか」
「……どう思う?」

 どことなく楽しそうに微笑み、試すように聞き返すハルを見て俺はやはり眉毛に同情し、残った酒を煽った。こんな自分の手に負えない女、俺だったら絶対ごめんだ。


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20120129
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