その滑らかに白い肌を見て、触れたいと思うのは別におかしなことではないと思う。美しいものを追い求めるのは世界共通の当然の心理だ。ましてそれが、惚れている女の子のモノならば尚更触れたいと願うだろう。 問題は、それを見たのがあまりに不意打ちだったということだ。不意打ち過ぎて、無防備だった俺の煩悩には刺激が強すぎた。だから衝動的に、本能的に、反射的に手が伸びて───つまるところ俺にはこのとき、自制を効かせる暇がなかった。 「……サンジくん…?」 椅子に座ったまま疑問符を浮かべるハルさんに、覆い被さるように近づく。右手はその白い足に這わせて、左手は小さな顎を捕らえて唇をなぞって。我ながら驚くべき手のはやさだ。 だって仕方がない、俺の視界に入る彼女の身体がそういうふうに俺を勝手に誘うのだから。いくら彼女が戸惑った声を出したって、止まれるはずがない。人間、反射的な行動を制御するなんて不可能だ。 「…?サン、…っん…ぅ」 ああ俺今、ハルさんとキスしてんだなあ、なんて。どこか冷静に考えている自分がいる。目立った抵抗を見せないハルさんに調子に乗った俺は、柔らかな唇に舌を侵入させていった。 「っ…は…、ん…」 「…ハルさん、…」 耳には心地良いハルさんの息遣いが聞こえて、熱い吐息を肌で感じて。あーあ何コレ、キスってこんな気持ちいいモンだったっけ。彼女の舌は熱く柔らかく、そして少しだけ甘ミルクティーの味がする。ああ、ここは天国か何かだろうか? 脳内が完全にピンク色に染まっていた俺はキスだけでは飽きたらず、気づけば彼女の服の中まで手を侵入させ─── 「……っ…!」 「…ぐぁ…っ!」 ようとしたところで彼女のしなやかな蹴りを思いっ切り鳩尾に食らい、俺は見事に吹っ飛ばされた。壁に打ち付けた背中にも、もちろん直接蹴られた鳩尾にも鈍い痛みが走り、俺は声にもならない声で呻く。彼女も歴とした戦闘員だ、蹴りの重みは相当なものだった。 「…欲求不満は次の島で解消しなさい?サンジくん」 「ハルさ、」 「……カップ、片付けてくれてありがとう。割っちゃってごめんね」 俺に背を向けて扉へ向かう彼女を止める言葉はなく、ばたんという音がキッチンに嫌に響いた。取り残された俺の頭は、先ほどまでの熱が嘘のようにすうっと冴えていく。 俺に一瞥をくれたときの、彼女の飽きれたような冷ややかな瞳。照れも動揺もなかったそれに、俺は希望の薄さを自覚して少なからず泣きたい気分だった。───欠片も相手にされていない。 「…、クソ…いってェ、……」 Love laughs at locksmiths. 20120113 |