甲板に出て、煙草を一服。今日も今日とて空は青い。海も青い。風も適度に吹いていてなんだかとても清々しい。俺は煙草をくわえ、なんとなしに煙の先を見た。 それにしても夢のような一晩だった。自分で思い返しても信じられないくらい必死で、最早何度したかなんて覚えてない。俺はセックスを覚えたてのガキのように何度も彼女と身体を繋げた。多分、あんなふうに本能任せに女の子を抱いたことなんて今までに一度もない。 「…ね、サンジくん…いいこと教えてあげようか」 唐突に後ろから聞こえた涼やかな声、振り返る間もなく横に並んだハルさんに、なあに?と微笑みかけると、彼女もまた唇の端を上げた。この小悪魔みたいな表情がまた色っぽい。 ついさっき起きたばかりだろうハルさんの目はまだ少し赤かった。こんな時間まで彼女が眠りから覚めなかった原因は、空が明るくなっていることにも気づかずに彼女を抱いていたこの俺だ。 「?…ハルさん…?」 問いかけても何も言わないまま、ハルさんの指先がゆっくりとこちらへ伸びて来る。細い指が俺のくわえていた煙草を奪ったかと思うと、今度は彼女の顔が近づいて来た。 ふと風に乗った彼女の匂いが鼻を掠め、それが昨日の情事を思い出させてずくりと下半身が疼く。全く、我ながら呆れるほど正直な身体だな。昨日あれだけ吐き出したというのに、まだ、足りないなんて。 「……煙草の味が好きな女の子は少ないわよ」 そのままねっとりとしたキスを交わした後、唇を微かに触れ合わせたままそう囁かれて、俺は熱い息を吐く。―――彼女の身体を気遣う気持ちはあっても、こう挑発されては堪らない。続きを促すように舌を出して彼女の唇を舐めたが、ハルさんはふっと笑っただけですぐに身体を離してしまった。 「あと、」 熱の上がった身体に海の風があたる。それでも、じりじりと内側で燻る温度は簡単には下がらなくて、俺は誤魔化すように唾を飲んだ。 昨日ベッドの中ではあんなに可愛く乱れていたというのに、何だろう、この豹変っぷりは。どうして彼女はこんなに余裕があるように見えるのだろう。ああ、その余裕をもう一度剥ぎ取りたい。 「…その欲情してる顔、なんかそそられちゃうなあ」 「…っ……そんなふうに言われると、俺…我慢できなくなるよ」 「…する必要、ある?」 牽制のつもりで言った言葉は見事に一蹴されて、そのまま互いに見つめ合う。どうやら足りていないのはお互い様らしい。―――止まれなくなりそう、ってのはこういうことだろうか。開き直った彼女も悪くねえ。いや、悪くないどころかものすごく、イイ。 結局俺はハルさんならなんでもいいんだな、と俺は一人で納得した。そうして吸い寄せられるようにキスをした俺たちは、再び求め合うため甲板を後にした。 Love means not ever having to say you are sorry. 20120322 |