あの、どうしようもなく焦がれた瞳が今、欲に濡れ、それでも真っ直ぐに俺だけを映し、他の誰でもなく俺を求めているんだという事実が俺の心臓を酷く締め付けていた。
 下から聞こえるくちゅくちゅという水音と、ハルさんの唇から零れる甘い嬌声。胎内に差し込んだ指先は柔らかな内壁を堪能し、締め付けを感じて―――そこに俺自身を埋めたらと想像せずにはいられない。つまり、端的に言うなら、俺の身体はもう、限界なのである。

「……ハルさん、」

 いい?、と、訊こうとした。言うなればそれが俺の中に残る最後の、そして僅かながらの理性のか細い糸だった。俺の声に反応したハルさんが、とろりと溶けた眼でこちらを見る。彼女の細い指先が緩慢に動き出して、何かと思えば、その行き先は紛れもなく俺のベルトで。
 俺は、残っていたはずの理性が跡形もなく本能に食い潰されていくのをまざまざと感じた。なんというか、彼女は時々酷く残酷だ。残酷に、遠慮なく、俺の余裕とか建前とかそういうものを全て剥ぎ取ってしまう。

「…何、…外してくれんの…?」

 しかしそこは男のプライドである。ここまで好き勝手やっておいてなんだが、やはり彼女には格好つけておきたいという気持ちはあるし、彼女を傷つけるようなことだけはしたくない。
 だからこそ細すぎる理性の糸をなんとか引き寄せて余裕を繕う、のに。妖艶に口角を上げる彼女の前ではそんなもの、何の役にも立たないんだってことを思い知らされるだけだった。

「、ハルさん…、」
「…っん、?…」

 カチャリと金具が外れる音と共に滑り込んで来た彼女の指が、既に勃ち上がっていた自身をそっと撫で上げて、びりりと信じられないくらい腰が痺れた。ゆるゆると細い指を動かされて、俺は込み上げる射精感を抑えつけるのに必死になる。

「っ…、…クソ…っ」
「ふふ、可愛い…、サンジくん…」

 下半身に集中していた意識が、耳元で囁かれた自分の名前に引き戻される。せり上がってくる快感をどうにか吐息で逃がしながらも、柄でもなく耳を塞いでしまいたい気分だった。
 可愛いと言われたことが不本意で仕方ないのに、不用意に口を開けばあらぬ声さえ漏れてしまいそうだ。こんな、身体の内側が熱くておかしくなりそう―――なんて。そんなの、女の子を悦ばせるための他愛ない言葉遊びのはずだろう?


Speak low if you speak love.
20120223
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