彼女の身体には古い傷痕が至る所に散らばっている。肌蹴た服から覗く滑らかな白い肢体の、陶器のような乳白色の肌に浮かぶ薄紅の歪な痕はどうにも倒錯的というか色っぽいというか、逆にその肌の美しさを際立たせて、とにかく俺を加虐的な気分にさせるのだった。
 特に、肩口から胸元にかけて少し大きな傷痕があって、それを舌でなぞってやると彼女は決まって顔を逸らし、口元に手をあてて声を押し殺そうとするので、その艶美な仕草を見たいがために俺はいつも決まってその傷を愛撫した。───今夜もまた、例に漏れず。

「…声を抑えてつらくないのか?」
「っ…、ん……っ」

 暗に声を出せと言ったつもりだったが、眉を寄せて懸命に声を堪える彼女にそれを聞くつもりはないらしい。それはそれでそそるな、と零せば何事か言いたげな目に睨まれた。
 何度行為を重ねても彼女の恥じらいが薄れることはなかった。だからこそ毎度毎度こうして興奮させられるのだ。

「ハル…、」

 くるりと彼女の身体を返して俯せにすれば、眼下に広がる作り物のように白い背中。正面よりも格段に傷の少ない、滑らかな肌。その細い腰を掴んで腰を滑らせると、彼女の背中がしなやかに反る。肩甲骨や背骨の窪みで作られる陰影が、肌の白さとあいまって芸術的なまでに美しい。
 彼女が後ろから犯されるのを好まないのは知っていた。自力のコントロールを失い、されるがまま快楽に翻弄される感覚に慣れないのだろう。けれど───こんなにも美しいものを前にして、それを手に入れたいと思うのは当然の心理だろう?

「や…っ、クロ、ロ」
「、ハル、」
「っふ…あァ…っん…っ」

 反射的に逃れようとするハルの腰を引き寄せ、先端で彼女の好きなところをぐい、突いてやると、四つん這いだった彼女の腕がかくりと折れた。
 腰だけを強請るように突き出したその格好が娼婦のように淫乱で、どくりと心臓が高鳴る。あの、強く美しい彼女が、俺の前で何とも無防備な姿を晒している。強くなる締め付けに息を飲んで堪えながら、俺は落ちてきた前髪を掻き上げた。

「まだトぶなよ、ハル…」

 まだ足りない。もっと彼女を味わいたい。ハルは俺のものだ。彼女の身体も、意識も、この瞬間は全て俺のものだ。───ハルとの行為は、何を盗んだときよりも俺を高揚させるのだった。


Up, up, and be high.

20130905
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