抜くときに思い浮かべる女が家に来ることになって、二人きりで、期待しない男がどこにいるだろうか。
 ましてその相手から、それなりに夜のことを意識しているのがひしひしと伝わってきたりしたら、もう、逃がしてやる気なんて無くなるに決まってる。ヒーローだって、中身はただの男なんだから。

「なあ、どうよ、風呂上がりに一杯やんない?」

 冷蔵庫から出したビールを二缶持って、ソファにちょこんと腰をかけているなまえになるべく明るい声で話しかける。
 身体が触れるくらい近くに座ると、ちらりとこちらに視線をやった彼女は、風呂のせいか元々火照っていた頬を更に赤くして、小さく肩を揺らした。…あーあ、そうやっていちいちびくびくしちゃってさあ。可愛いったらねェよな。

「んー?どしたのなまえちゃん、顔、赤いぜ」

 わざとらしく顔を覗き込めば彼女は照れたように俺から視線を外した。少しして、様子を窺うようにゆっくりと俺の方へ戻ってきたそれは熱と羞恥に潤んでいて、そのままなまえは拗ねたように唇を尖らせる。
 だから、んなことしたって可愛いだけなんだって。

「…何にやにやしてんの」
「いやァ、かーわいいなあってね」

 むくれている彼女についそう本心を洩らすと、からかわれたと思ったらしい彼女は俺の手からビール缶を奪い、うるさいなあ、と一言。
 両手で持った缶からちびちびと拗ねたようにビールを飲むなまえを、横目でとっくりと観察する。零れる髪の合間から白い項がチラチラと見えて目の毒だったし、全体的に湿ったような肌が俺を誘っているようにしか見えなくて、俺は誤魔化すようにビールを呷った。

「…ね…、…こてつ、さん」

 何か決心したように零された彼女の声が、目眩がしそうなほどに甘い。視線を向けた先のなまえは完全に女の顔だった。
 彼女も今日はそれなりの覚悟でうちにやって来たのだろう、シャワーを浴びてなお手を出さない俺に焦れてるってわけだ。彼女は俺に、大人の余裕を見せつけられているとでも思っているのだろう。それはまあとんだ勘違いではあるが、そんな彼女に俺は内心くつりと笑う。

「…なーに、なまえ」

 安心しろよ、ただ、なまえの方からちゃあんと俺の所に飛び込んで来るのを待っているだけで、逃がしてやるつもりなんか、初めからこれっぽっちもねェんだからさ。

お嬢さん、お逃げなさい
20120122

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