女の人というのはどうにも不可思議な生き物だ。髪型や化粧、纏う服、付ける香水やなんかで、随分と印象が変わってしまう。それは彼女もまた、例外ではなく。

「ただいまあ」
「…おかえり、なまえ」

 いつもは見せない綺麗な項や滑らかな鎖骨へのライン、いつもより少し濃いめのメイクに、華やかな香水の匂い。友人の結婚式から帰宅したなまえは、いつもとは違った大人の女らしさを醸してドアの前に立っていた。
 彼女は今日、この、僕の知らない人みたいな姿で、きっと何人もの男に笑いかけたのだろう。そんな彼女に、何人もの男の視線が集まったのだろう。ああ、考えるだけでも我慢ならない。この人は僕の、僕だけのものなのに。

「…バーナビー?どうしたの、固まっちゃって」

 どうしたの、だって?どうもしやしない、ただ少し、どうしようもない嫉妬心が胸の奥で燻っているだけだ。解っている、感情的で、非理性的なこれは子供の癇癪と同じだってことくらい。だけど。

「…どうもしませんよ、…ほら、入って」
「ふふ、嘘ばっかり。見惚れちゃったんでしょう?」

 どろどろとした感情をどうにか飲み込んで笑みを浮かべ、なまえを玄関へと招き入れると、彼女は小悪魔みたいに可愛らしい顔で、声で、そう僕をからかった。
 彼女は解っていないのだ。僕が、どんな気持ちで彼女の帰りを待っていたか。僕が今、どんな気持ちでいるのか。全くもって解っていない。解って欲しい。

「…、なまえ」
「うん?」

 確かめたい。この人が揺るぎなく僕のものなのだという確信が欲しい。

「…来て」
「え、…っ」

 いつもよりヒールの高いパンプスを履いた彼女の腕を引いて、僕はベッドルームに向かった。目の端にちらりと映った締まった足首に、軽く眩暈。この華奢なくせにどこかセクシーな曲線が、沢山の人の目に晒されてしまったのだと舌打ちしたくなった。
 そのまま力任せに部屋へと引っ張り込み、ベッドに押し倒したなまえはどこかの国のお姫様みたいに綺麗で。そんな彼女に覆い被さって自由を奪っている自分がなんだか凶悪な悪者で、救いようのない人間のように思えた。

「……なまえ、…なまえ」

 首筋に鼻先を埋め、呟くように彼女の名前を口にする。見た目も香りもいつもと違うから、彼女が本当に知らない人のようで言いようもなく不安だったし、何となく、不用意に彼女に触れるのが躊躇われた、けれど。

「…なあに、バーナビー?」

 その甘い声と、優しく僕の髪を梳く指先だけは、僕の知っている、僕だけの彼女のものだったから、

あとは瞳を閉じるだけ
20121229

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