突然の雨に足止めされて、途方にくれていたところにかかってきた恋人からの電話。

「…やられた…」

 迎えに行きましょうかと言う彼に甘え、風邪をひいては大変ですからと言う彼に流され、近いという彼の家へ行くのに少しでも浮かれたのが馬鹿だった。彼にとっては全てこうして自分の部屋に連れ込んで好き勝手するための、ただの言い訳だっただろうに、私は一体何にときめいたんだ。
 無意味なことを嫌う彼の気遣いの裏にはあられもない下心が潜んでいる、しかも彼はそれをまるで当然だとでもいうように笑いながらやってのけてしまうことなんて、以前から何度も学ばされてきたではないか。

「ちょっとバニー!」

 押し込まれたバスルームからあがった私の目の前には、彼のものだろう明らかに男物の白いワイシャツ、そして柔らかい上質のバスタオル。それ以外に身に纏えそうなものは見当たらない。
 どちらもご丁寧に脱いだ服と交換してくれたらしいが、何がまずいって、下着がないのだ。これは由々しき事態である。

「はい、どうしました?」
「きゃああちょっと開けないで!」

 ワザとだ、この男絶対わざとやっている。白々しくももう一度どうかしたんですかと尋ねる声が楽しそうだ。私の服は、と尋ねれば、濡れていたので今は洗濯機に、と当たり前のように返ってくる。

「……下着も?」
「もちろん」
「…っじゃあせめて下も貸してよ!」
「…僕のシャツ着てみました?下、は不要だと思いますよ」

 ああもう本当に、この男はこうだから質が悪い。意地悪で子どもで、そのくせ仕掛けてくる悪戯がやけに男じみていていやらしい。
 用意されていたらしい完璧な返答に言葉が詰まる。確かに着れば短いワンピースのような丈なのだろう。タイミングを見計らったように、ね?と念を押されてしまえばもう観念するしかなかった。どうせ口では適わないのだ。

「…とってもそそりますね、その格好」

 裾をおさえながら、意を決してバスルームから出た私に、口元に手をあてて楽しそうに翡翠の瞳を滑らせるバーナビー。あんたねえ、と睨みつけたところで羞恥に潤んだこの顔では逆効果のようだった。

「なまえが悪いんです、僕の家に来るのにあんまり無警戒だから。悪戯の一つぐらいしてやりたくなりますよ」
「ば、っかじゃないの…!こんな格好してたら本当に風邪ひくわよ!」
「ああ、その心配はありません」

 どうせすぐに熱くしますから、なんていっそ清々しいほど堂々とのたまうバーナビーに抱き抱えられ、有無を言わさずベッドルームへと連行される。もう本当に、何もかもが一から十まで、彼の思い通りだ。
 悔しいけれど、シャツに残った微かなコロンに心臓を鳴らしてしまった私が、彼に逆らえるはずもなかった。

無垢をどこへ捨てたの
20111208

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -