ちゃんと寝ていますか、ちゃんと糖分を摂取していますかと、社内ですれ違う度に尋ねてきた彼女が、数日おきにオフィスまで飴を届けに来るようになったのはここ最近の話だ。
 甘党の彼女は睡眠と糖分さえとれていればある程度健康でいられると信じているらしい。正真正銘の馬鹿だな、と頭ではそう思うのに、何故だかお節介な彼女を真っ向から否定するのは憚れたし、拒絶することもできないでいた。

「ユーリさん、はい、どうぞ」
「…これはまた、可愛らしい色ですね」

 ころりと手の平に落とされた薄いピンクのそれを見て、私は感情を抑えた声で吐き出した。幸福を滲ませるこんな色は、彼女にこそ似合うものだろうに。
 そんな私の気も知らず、彼女は私の好みの味なんかに興味を抱いているようだ。好みの味、などというものはない。食べるものはすべて、この身体の生命機能の維持に役立てば、それでいい。それ以上でも以下でもないものだ。

「苺ミルク味ですから」
「…そうですか」
「昨日初めて食べたんですけど、美味しいですよ」

 ああ、この柔らかな笑顔に、彼女は正しく日向に立つべき存在なのだと私は何度戒められてきただろう。彼女の屈託のなさは、彼女がどれほどの愛に包まれて生きてきたのかを容易に想像させた。そして、そんな彼女に決して釣り合わない自分の立ち位置を嫌でも意識させるのだ。

「……ユーリさん、?」
「…何か?」
「なんだか、…いつにも増して顔色が悪いみたいですけど…」

 大丈夫ですか?と窺ってくる彼女につきりと脳の裏が痛む。貴女には関係のないことだと切り捨てればいいのに、そうできないことがもどかしい。反射的に額に手をあてると、視界から彼女の姿が消えて少しだけ痛みが和らいだ。

「……ご心配には及びませんよ」

 彼女の纏う甘ったるい香りとその安い気遣いを感じる度にひどい頭痛に苛まれるようになったのはいつからだろう。彼女と同じ空間はいつだって、行動の主導権を奪われているようで居心地が悪かった。私が触れていい類の人間ではないのに、触れてみたいと思わせる。そう思うことすら罪なのだと、私はちゃんと分かっているはずなのに。
 だから、ただの薄っぺらい義務感に過ぎないのなら、まるで本当に私を心配しているかのような顔をして、無責任な言葉を投げるのはもう止めてくれないか

君の優しさは嘘だと知っていたけど、
20111027
企画「なまえをちょうだい」様提出

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