「ユーリの隈って色っぽいよね」
そう告げられたユーリが、何も言わずにいかにも怪訝そうな顔をしたので、私は思わず吹き出してしまった。椅子に優雅に腰をかけたユーリの表情に少し困ったような色が浮かぶ。
「あは、ユーリってわかりやすい」
「…そんなことを言うのは君くらいだ」
そう言って手に持っていた難しそうな本を閉じたユーリの手招きに応じ、嫌みなほど長い足の上に跨った。細い、けれど見た目よりもはるかにがっしりと肉付いた綺麗な脚だ。
素直な私に満足したのか、ふっと笑ったユーリの白い指先がさらりと髪を撫でてくれる。その指が頬をなぞって唇に触れた。
「ほらやっぱり、わかりやすい」
キスがしたい、と。ユーリの全身から伝わってくる。それに応えるように私は、人より血色の悪い唇に啄むようなキスを落とした。触れ合ったそこは少しひんやりとしていて気持ちがいい。
「……違うな」
「え?」
何が違うのかいまいち理解が追いつかない私は、きょとんとしてユーリを見る。そんな私を真っ直ぐに映した水晶体が楽しそうに揺れて、頬に置かれた手が再び私の唇をなぞりだす。
キスならさっきしたじゃないか、と首を傾げると彼は喉の奥でくつくつと笑った。
「…私はもっと、…大人のキスを強請っているんだよ」
そう言って口内に差し込まれたユーリの指は、私の舌を軽く弄び、からかうよに上顎を擦ってからからすぐに出て行った。
ユーリの指は長い。長くて白くて綺麗で、でもしっかりと男を感じさせる指。唾液に濡れて光るそれがなんだかイヤらしい。彼はそれを、私に見せつけるようにして舐めとった。僅かに青味がかった唇から伸びる赤い舌に目を奪われる。
「…ほら、わかりやすいと言ったんだ…わかるだろう?」
どこか不穏な空気を感じてユーリの膝から降りようとしたけれど、見透かしていたかのように彼の片手ががっちりと腰に回っていた。
身動きすらとれない私の視線が、彷徨ってからユーリの口元に向かう。微かに開いた唇から覗く舌は明らかに私を誘っていた。けれど、彼は自分から動く気配を見せないので、こうなったら彼が満足するまで解放されることはないのだろう。そう理解した私は彼の望む通りキスをした。
彼はされるがままだったので、私は慣れない舌使いで彼の舌を緩く噛んだり吸ったりと忙しい。そうして息が続くギリギリのところで離れると、ユーリが自分の唇をぺろりと舐めた。
「……まだ、足りないな」
その瞳の奥には満足とはほど遠い色が見えた。
密室であるか否か
20110924