「いやあ、ほんと、ゴチソウサマ」
「ふふ、またいつでも来てくださいね、虎徹さん」
「まじで?なまえちゃんの美味い飯のためなら、オジサンいくらでも頑張れるわ」
「……発言が親父くさいですよ、オジサン」

 すっかり打ち解けた雰囲気の二人に、僕ひとり不機嫌を隠しもしない。それを見た二人が可笑しそうに笑うのがまた僕の機嫌を損ねる。子ども扱い、されているような。

「くっくっ…、へいへい、また明日な、バニーちゃん」 

 オジサンが僕より人と打ち解けるのが上手いというのは認める、そしてなまえも、そういう人間に対して壁を作ったりしないのだということくらい十分に分かっていた。だからこの二人が顔を合わせてしまった場合どうなるかなんて、最初から目に見えていたんだ。
 僕が必死で縮めたはずの彼女との距離を、彼はきっといとも簡単に飛び越えてしまうんだろうって。それを目の当たりにした僕はきっと、諦めにも似た達観と、子供じみた嫉妬を覚えてしまうんだろうって。

「虎徹さんっていい人だねえ、…バニーちゃん?」
「…貴方までその呼び方、やめて下さい」
「なんで?可愛いよ」

 そんな僕の子どもっぽい感情を全て見通した上でそんなことを言うんだから、彼女も大概たちが悪い。
 不機嫌をアピールしたところで楽しそうにあしらわれるだけだと分かってはいても、胸の奥に渦巻くものをコントロールする術も分からなかった。

「……そんなこと言われたって嬉しくありません」

 お節介なオジサンが急に僕の彼女を見たいと言い出して、なまえが待つ僕の家に押しかけて来たのがほんの数時間前。
 図々しくも夕飯まで食べて行った彼になまえが屈託なく笑いかけるから、僕はなんだか落ち着かなくて。でも、会話の合間で視線が絡むと彼女が僕だけに柔らかい笑みを向けてくれるものだから、不覚にも胸が締め付けられたりして。
 
「なぁに?拗ねてるの?」
「…違います、」

 大体どうして貴方はさっきからそんなに余裕なんですか。…いや、ただ僕が余裕をなくしているだけだなんてわかってますけど。今ソファに押し倒されているのはなまえ、押し倒しているのは僕、なのに精神状態はまるで逆だ。

「じゃあ妬いてるんだ、バニーちゃ、っ…ん…!」
「…ちょっと、黙って」

 そんなことが悔しいなんて、自分でも笑ってしまうほどガキで、それこそ滑稽な幸福だと思うけれど。悔しいものは悔しいので、とりあえずこの可愛い口は塞いでおきましょうか?

青臭い落下地点
20110917

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