例えば今の僕が、今まで抱いたことのある誰かをなまえと同じように抱いたら、その誰かはきっと、今日は激しいのねと言って笑うだろう。そう、僕は女性の身体に無理をかけない程度を心得ているし、無理を強いないセックスしかしなかった。みながみな口を揃えて「優しい」というので、僕は僕自身、自分の嗜好は優しいものなのだと思っていた。

「…バーナビーのせいで喉痛い、腰も痛い」

 そもそもこういう行為自体、特に興味があったわけでも、まして好きだったわけでもなかった。ただ生理的に必要だから、と後腐れのない女の子に声をかける程度のものだったのだ。僕は一、二度欲を吐き出せればそれで良くて、女の子を気持ちよくするのはそれに付随する義務だと思っていたし、それによって僕は、ある種の優越感を得ていたのだと思う。

「僕のせいだと言われると、なんだか逆に気分がいいですね」
「それはそれは、素敵な根性ですこと」

 けれど、それらは全て、今となっては過去の話だ。僕はなまえと繋がって、セックスの気持ち良さというものを初めて知った。愛する人間と触れ合うことが、熱に溶けて一つになることが、こんなにも幸福な気持ちを呼び起こすものなのだと、彼女だけが教えてくれた。
 それまでに感じていた取るに足らない優越感に浸るヒマもないほど、僕はなまえに夢中で、必死で、支配欲や独占欲がいつでもどうしようもないほどに溢れていた。

「…バーナビー、お水欲しい」
「とってきますよ」

 そうして、病みつきになるような底のない快感を知って、僕の行為は一変した。彼女との触れ合いが、すべてを変えてしまったのだ。それほどまでに、別物だった。
 単なる性欲処理に終われない、抑えなんかきかないし、毎日だってしたいと思うし、唐突な瞬間に抗い難いほど欲しくなることもある。「優しい」と思っていた僕の嗜好など、彼女の前ではすぐに瓦解してしまう上辺だけのものだった。本当の僕はもっと嗜虐的だ。

「どうぞ」
「ありがとう」

 ほら、今この瞬間だって。手渡したペットボトルに、気怠そうに感謝を述べる姿が、僕をゾクゾクさせてしてしまう。嗄れた声とその疲労の原因がほかでもない自分なのだと意識するだけで、欲情できた。
 
「ん、…バーナビーも飲む?」

 こくりと水を飲み下す、晒された細い首筋。その下に残したキスマークがつい先ほどまでの行為を思い出させて、僕はやっぱり、抑えられなくなるんだ。
 唾を嚥下する自分の喉が生々しい。男なんてつまるところそんなモノなんだと、身をもって実感する。前までは、こんなふうじゃなかったのになあ。

「…いえ、大丈夫です」
「そ」
「ふふ、…僕への文句はもう終わりですか?」
「何言ってもムダだもん」
「さすが、よく分かっていますね」

 自分自身の中に眠っていたどうしようもなく動物的な本能が、怖くないと言ったら嘘になる。彼女の身体の負担を気にかけないわけじゃない。けれど、どうしたってこの欲望を隠すことはできなくて。
 例えば今僕が、僕のセックスはどうかとなまえに尋ねたら、彼女はなんと答えるだろう。これまでの女性たちのように、「優しい」などとは間違っても表現してくれない気がする。これでも精一杯、優しくしたい気持ちはあるのだけれど、彼女を前に上手くいった試しがないのだ。

「…ねえなまえ、もう一回したいって言ったら、怒ります?」
「…どうせ怒ってもムダ、でしょ?」
「はは、やっぱり貴方は、よく分かってますね」

いっそ窒息死を望む
20110914

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