「…どうしたの?眠れない?」
大きめの枕を抱えて俺の部屋に入ってきた可愛らしい俺の恋人は、とりあえず、雄の性ってやつを知らないらしい。
真っ先に喉まで出かかった、ホットミルクでもいれようか、という提案は声に出さずに飲み込んでおいた。プリンセスのご要望くらい、表情から読み取れなくてどうする。まして、この女の子は俺の特別なお姫様なのだ。彼女が今欲しているのは、温かい飲み物よりも、眠るための湯たんぽだろう。
「しょうがないなあ…ほら、おいで」
何も言わずにいるなまえちゃんにそう優しい声で言ってやると、彼女は不安げな表情をぱっと明るい笑顔に変えた。あーあ、なんでなまえちゃんはこう、悪戯に男の、いや、俺の欲を煽ってくるんだろう。
なまえちゃんがこうしてすり寄ってくる度、俺がどれだけの葛藤を繰り返しているかなんて、彼女は一ミリもわかっていないんだろうなあ。
「ふふ、ほんとに、サンジくんは優しいね」
するりとベットに入ってくる仕草はなんとも可愛らしいのだけれど、感じる温い体温に否応なく下半身が反応しそうだった。不可抗力ってやつだと思う、だって男の体ってのは最初からそうなるように設計されているんだ。
まあ、そんな男の事情なんか気にもとめない彼女を、心の底から可愛いとは思うのだけど。俺の胸に頭を埋めてもぞもぞと落ち着く位置を探すなまえちゃんに、激しい煩悩がせめぎあった。
「…くっつき過ぎじゃない?」
「……ダメ?」
「、…いや……ダメじゃあねえけどさ」
極めつけはこの上目遣い。わかってやっているんじゃないかと疑いたくなるほど男のツボをついてくる、彼女は天性の小悪魔だ。なのに、えへへと笑う顔は間違いなく天使のそれで。いいように翻弄されるしか道がなかった。
「…ん、じゃあ、おやすみなさい」
丁度いい位置を見つけたらしい彼女が目を閉じても、こっちはふにゃりとあたる柔らかい胸だとか、ふわりと香る石鹸の匂いだとかに気をとられて仕方がない。
こんな状況でこんなこと思うのは本当、紳士としてどうかと思うけど、でもほら、反応しちまったもんは反応しちまったし。だってあまりにも無防備すぎるだろう。その白いうなじも、なんかもう、全てがやばいんだって。
「……なまえちゃん」
「ん?」
鼻にかかったような甘い声に、彼女の肌に齧り付きたいという雄の本能が細い細い理性の糸を破り、どくりと首をもたげる。ああ、もうだめだ。
「ちょっと、気持ちいこと、してもいい…?」
「え、」
ごめんね、と力なく謝れば、微かに首を傾げて俺を見るなまえちゃんは少し間をおいてから、いいよ、と小さく微笑んだ。そんな可愛いお許しを、この俺が聞き逃すはずもなくて。
恥ずかしそうに水分を滲ませる瞳が、俺を誘っている。どうして彼女はこんなに可愛くて、俺はこんなに獰猛なんだろう。その甘美に負けて小さな唇を満足するまで貪るなんて、紳士失格、かもしれない。
「…そんじゃ、遠慮なく」
薔薇色に呼吸困難
20110916