普段世の中に振り撒かれる笑顔とは裏腹に、存外人との壁の厚い彼が、その無防備な寝顔を見せてくれるようになったのは随分と最近の話だ。そんなことが今の私には限りない幸せのように感じられた。

「…風邪ひきますよ、」

 夕飯に使った食器類をしまい終えてリビングに戻れば、本を片手に目を閉じた端正な顔。彼が体を沈めた上質なソファに近づき、その高い鼻を眺める。いつ見ても彼の睫毛は羨ましいくらいに長かった。

「…ん…あ、すみません、寝てしまって…」
「ううん」

 意外とあっさり目蓋を持ち上げた彼の顔には、外で見せるものより少しだけ甘みの強い笑みがうっすらと浮かんでいた。
 それこそ王子様みたいな微笑で伸びてきた腕が腰に回り、そのまま上に乗るよう促される。私はそれに逆らうことなく彼に跨り、自然彼を見下ろすような位置になった。

「…待ちくたびれました」

 この体勢は最近のバーナビーのお気に入りだった。自分の上に私を乗っけて髪を弄ったり頬を撫でたりしながら、雑誌を読んだりテレビを見たりする。
 当の私も初めこそ恥ずかしがっていたものの、これが彼なりの甘えなんじゃないかと理解してからはこの体勢になんの抵抗もない。

「…それは申し訳ありませんでした、…王子様?」

 いつも以上に体を密着させながら拗ねたような声を出すバーナビーに笑いながら、ちゅっと軽めのキスを落とす。
 すぐに離れたそれはそのまま後頭部を押さえられて、段々と深いものへと変わっていった。舌を甘く噛まれてくぐもった声を漏らせば、吐息が触れ合う至近距離で彼が笑う。何もこの距離でしゃべらなくてもいいんじゃないかと思うほどの至近距離。彼が声を出す度に吐息が頬に触れて、全身がカーッと熱くなり、顔が否応なく赤く火照っていくのがわかる。
 けれど文句を口にする余裕も間も与えずに、そうやって恥ずかしがる私を愉しむのが彼の嗜好なのだ。

「…今日の僕、わりとがんばってたと思いません?」
「…え、?うん、お疲れさま」

 確かに今日のヒーローTVを見ている限り、彼はいつも通りの手際の良さで市民を非難させただけでなく、仲間の援護に回ってすぐに自分の方へと逃げてきたネクストをこてんぱんに叩きのめし、大活躍と言っていい働きをしていたように思う。
 それがヒーローとしての仕事じゃないかという正論も思い浮かばないわけではなかったが、この時の私の頭は彼の思い通り、なんだか彼をもっと甘やかさなければいけないという気持ちでいっぱいになっていた。微睡んでいたはずの瞳にチラつく捕食者の色が、追い討ちをかけるように私の思考を根こそぎ奪い去っていく。

「うん、だから…ご褒美、期待してますよ?」

お砂糖に埋めてください
20111130

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