まとめて壁へと縫い止められた両腕が痛い。噛みつかれた唇が痛い。口内には生々しい鉄の味が広がっていた。

「っつ…、ふ…っ」

 離れていった持田さんの唇には買ったばかりの私のグロスと、僅かな赤が付着していた。ニヒルな笑みを浮かべてそれをぺろりと舐めとる仕草が、いかにも様になっている。
 痛みで自然と熱くなってしまうこの水晶体が、きっと彼をさらに興奮させているのだろう。間近に見る彼の瞳孔は全開だった。

「あー…、うまそ」

 そんな、本物の肉食獣のような台詞を吐いた持田さんはそのまま私の首筋に噛みつき、感触を愉しむように強く吸い付く。更にはその噛み跡を舌の先で抉られて、私はひう、と悲鳴にも似た声をあげた。
 痛覚が痛みを熱に変えているのか、噛まれた部分がじんじんと熱い。そうしてその熱は、何時の間にか下腹部の疼きへと変わっていった。

「つ、ぅ、…っ痛、…」
「だって痛いの好きじゃん、お前」
「…ちが、」
「違わねえし」

 なんなら証明してやろうか?と不敵な笑みを浮かべた持田さんが、私の下半身に手を伸ばす。スカートの裾を捲り上げられ、下着を下ろされ、無遠慮に触れられたそこは自覚できるほど濡れていて、持田さんの指はぬるりと滑った。

「ァ、…っ」
「ははっ、…ほらな。濡れてる」

 私のイヤらしさを揶揄するように、持田さんの指は入り口を往復するばかりで一向にナカに入ってこようとしない。そのもどかしさにぎゅっと閉じていた瞳を開けると、目の前には満面の笑みを浮かべた持田さんがいた。
 ぞくんと背筋に震えがはしり、肌が粟立つ。同時に、じゅくりと蜜が零れるのを感じた。彼に躾けられた身体では恐怖よりも期待が勝ってしまうらしい。

「はっ、だからさ…もっと痛いモン、くれてやるよ」
「え…っや、…っいァ、あ…、ぅ!」

 いくら濡れていたとはいえ解されてはいないそこは、突然与えられた有り得ない質量にぎちぎちと悲鳴をあげる。許容量を超える痛みに眩暈を覚えて唇を噛むと、気を逸らすように耳朶に強く歯をたてられた。
 耳の痛みに気を取られた瞬間、一気に深くまで侵入されて、息が詰まるような圧迫感に細く息を吐き出す。彼の先端が最奥に届くと私の喉は声にならない悲鳴をあげた。

「はっ…、きつ…」
「ぅ…ひっあ、…!」

 苦しくて、痛い。それでも、無理矢理出し入れを繰り返された私の身体はいとも簡単に快感を拾い上げていく。どこに縋ることも出来ない不安定な浮遊感のなか、耳を擽る彼の荒い呼吸がどこか私を安心させていた。

真空の街で窒息死
20111023

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -