ぼんやりと意識が覚醒して、ゆるゆると重たい目蓋を持ち上げる。
 後頭部に感じる彼の太腿は上質な筋肉のおかげか意外と柔らかくて、硬めの枕が好きな私には丁度いい。

「んー…、バーニィ…」
「はい?」
「…んーん…」

 用がないことなど分かっているはずなのに、律儀に返事をしてくれるバーナビー。上から降ってくる彼の声はどこまでも柔らかい。
 いわゆる膝枕をしてもらいながら優しく髪を梳かれている感覚が心地よくて、ふわりと香る彼の匂いが心地よくて、耳に残る彼の声が心地よくて。自然と甘えたような声がでた。

「ふふ、…やっぱり、寝起きの声はセクシーですね」

 へんたい、とふざけて非難するように言えば、男なんて所詮そんなものですよ、と悪びれもしない声が返ってくる。まったく、日常というものがこんなにも幸せで、いいのだろうか。何もない、平和で、穏やかで、幸せな時間がゆっくりと過ぎていくのが、こんなにも当たり前でいいのだろうか。
 二人して蜂蜜みたいに甘い声でじゃれついて、中身のない会話も彼となら何か意味があるような気になってしまう。バーナビーと過ごすこんな時間がずっと続けばいい、なんて陳腐なことを本気で思うのだ。

「…ねえ、もしかして…ずっと起きてた?」
「ええ、もちろん。…なまえの寝顔、可愛かったですよ」

 彼が口端を僅かに上げる。テレビで見せるような似非的なスマイルとは違う、もっと意地悪そうな、悪戯っ子のような顔だった。

「…うわ、やらしい」
「やらしい?どうして?微笑ましい恋人の図じゃないですか」
「白々しいなあ、」

 どうせ何かやらしいことでも考えてたんでしょ、と零す私に、バレバレですねと、彼が笑う。彼の知名度がどんなに高くとも、こんな心底楽しそうな彼の顔を知っている人間なんて、きっとそうそういないだろう。
 ごそりと寝返りをうって、彼の腰に腕を巻きつける。見た目よりもがっしりした腰の中心がいくらか熱くなっているように感じるのは気のせいだろうか。

「…何考えてたの」
「…貴方には想像もできないような、いやらしいことですよ」

 見上げた視線が彼のそれと絡まりあって数秒、私とバーナビーの間にあった生暖かい空気が、甘く、いやらしく、どろどろに煮詰まっていくのを肌で感じた。
 髪を梳いていた彼の指先が耳の裏を擽り、形を確かめるようになぞっていく。背筋をぞくぞくとしたものが走り抜けて、身体の熱を逃がすように吐き出した息は熱っぽく湿っていた。私を見下ろす彼の翡翠にも欲の影がちらついている。

「何を考えていたか、知りたいですか?」
「…教えてくれるの?」

 我ながら挑戦的な声色だった。目線だって今の位置を最大限に利用した角度で、ごくりとバーナビーの喉元が動く音を聞きながら、私の身体はそのままぎしりとソファに沈み込んだ。

致死量の酸素に溺れた
20110915

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