チームメイトと楽しそうに談笑する姿が、僕の脳を沸騰させる。なまえの笑顔は、もちろんとても素敵だと思う。だからこそ、僕だけのものであって欲しい、なんて柄でもないことを考えてしまうのだ。

「…っ…ジーノ?」

 壁際に追い込んで、両腕で逃げ道を奪う。戸惑った声をあげる彼女を無視したままゆっくりと顔を近づけると、訳もわからないだろう彼女はそれでもそっと瞳を閉じた。
 微かに開いた唇から侵入させた僕の舌は、胸の中に渦巻く言いようのない感情に任せてなまえの口内を舐めていく。舌で感じるそこは温かかった。

「なまえ…」

 いくらガールフレンドだとは言っても、他人にこんなにも心乱されるなんて全く僕らしくない。おかしいなあ、僕はもっと恋愛上手じゃなかったっけ。いつだって余裕を失くしたりせず、そうして女の子を翻弄して、優しくして、虜にするのは僕の方だったはずなのに。

「ん…っふ、…ぅ」
「、……は…、」

 しばらくして顔を離すと舌と舌が透明な糸で繋がっているのが見えた。同時に彼女が少し怯えているのがわかる。大きな瞳は今にも水滴を零しそうだし、弱々しく僕の服を掴む手は僅かに震えている。
 困惑の色を滲ませた彼女の眼には僕の顔だけが映っていて、その事実が少しだけ僕の気持ちを落ち着かせた。

「…、どうかしたの…?」
「…何がだい?」

 自覚するほど貼り付けた綺麗な笑みを浮かべてやると、なまえは何か言いたげに唇を震わせた。けれど結局それは微かな空気の音を作り出すだけで。

「…ジーノ、…」

 追い込まれているのは彼女の方で、確かに彼女は僕に怯えているはずなのに、その声には僕を心配する色さえ混じっている。僕の鼓膜に心地よく響くそれに、心臓が掴まれたような気さえした。
 だけど、なんて言えばいいのだろう。あんまり他の男に、その声を 笑顔を 振りまかないで欲しいって?そんな君を見る度僕は、薄暗い感情に流されてしまいそうになるんだって?
 ああまた君はそうやって容易く僕を混乱させて、迷わせて、思考をぐちゃぐちゃにして、

「…愛してるよ、なまえ」

 最後には僕をどうしようもない気持ちにさせて。結局僕は、ただ愛の言葉だけを吐いて、彼女にもう一度キスをすることしか出来ない。

僕の心臓を返して
20110818

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