彼女はただただ甘かった。ふるまい一つとっても、彼女の肌そのものも、全身から匂う女の香りも、その小さな口から紡がれる音も、全てが悉く甘ったるい。それは、俺の中に燻る荒々しい興奮を余計に助長させる甘さだった。
「銀、さん…?」
「…、ちょっと黙ってて」
「っぅ…ん、まっ」
「……黙れって言ったの、聞こえなかった?」
低めの声でそう嘯くと、壁に押さえつけたなまえの身体から少しだけ力が抜けた。身体を強張らせたまま見開かれた目には怯えの色が混じっていて、それはやっぱり俺の興奮を煽った。
帯をほどくのすら億劫で、閉じられていた袷を無理矢理開いてその白い肌に舌を這わせる。冷たさを連想させるような白さであっても、実際に触れたそれは心地よい温度を伝えてくる。舌先に感じるその味は汗のしょっぱさに混じって仄かに甘かった。
「…あー、甘めェ、な」
「っ、ぎん…っん、ぐ」
俺の名前を紡ぎかけたなまえの口に、無遠慮に指を突っ込む。
「…銀サン、喋っていいなんて言ってないよ?」
「…っ、う、…ふぁ」
逃げようとする彼女の舌を弄べば、なまえは苦しそうな息を漏らした。酸欠に潤んだ綺麗な水晶体が虚ろに俺を見つめていて、そこに映った俺自身と目があった瞬間には、ぞくりと背筋に震えがはしった。
子どもに言い聞かせるような声を出したのは、或いはその耐え難い衝動を抑える自分のためだったのかも知れない。
「なまえ、…」
涙を溜める瞳を無視してそのまま咥内の感触を楽しむうちに、指に感じる粘膜の熱さが身体の内側を焦がしていった。
上手く飲み込むことが出来ないのか、彼女の口端からは涎が零れ出している。ゆっくりと顎まで伝い落ちていく雫。
「ぅ、……っは…」
見れば、彼女の白く細い腕は弱々しく俺の着流しを掴んで震えていた。ここまでされても本気の抵抗を見せないどころか、こうして俺に縋ってくる彼女に、俺は心中で舌打ちする。
力を入れれば脆く壊れてしまいそうなほど華奢な体が、そうやってなんとも艶やかに俺の理性を破壊していくから、俺はもう、ただの雄に成り下がるしかなくなるんだ。
「…あー…っ、くそ、」
なまえの唇から乱暴に指を引き抜き、喘ぐように開いた唇を、今度は舌で塞いでやった。躊躇いがちに差し出された彼女の舌を夢中になって自分のそれと絡ませる。
俺をどこまでもおかしくさせる彼女のこの甘さから、逃げることなんて出来やしないと思った。
楽園とは程遠い
20110915