刃がまぐわう、彼は笑う、私は手の平に力をこめる。

「高杉晋助…神妙に、お縄につきなさい」

 誰もが言う、未来は変えられる、というのは真っ赤な嘘だと私は思う。少なくとも、かなり限られた範囲の話でしかないものだと思う。当然のように、この世には変えられない未来もたくさん転がっている。
 例えば、私とこの男はきっとこの先どこまでいっても敵同士で、それ以上にも以下にも成ることはない。成り得ない。

「何のひねりもねえセリフだなァ?」
「決め台詞ですから」
「ククッ…」

 圧倒的不利な状況であっても不敵な笑みを、余裕の表情を崩さないこの男。その妖艶な笑みも地を這うようなその声も、彼を構成する全てが私を魅了する。理屈なんてものはなかった。ただ惹かれる。心臓に見えない糸が括り付けられているかのように。

「…なあ、なまえ」
「…何度訊かれても私の答えは変わりませんよ」
「フン、…相変わらずつれねえなァ」

 くつくつと独特の笑いを堪えもしない彼を睨みつければ、そんな私に彼は猫のように目を細めた。どこまでも喰えない男。
 私が欲しい、と彼は言う。そうできないことを知っていながらこちらに向かって手を伸ばし、手に入らないことを理由に世界への憎悪を底無しに深めて、ますます私と隔たっていく。私は彼と違ってこの世界を恨んだことも憎んだこともないし、まして世界を壊したいだなんて思わない。思ったこともない、そんな大層なこと。

「…いけませんか」

 ただ、矛盾と虚無を抱えて闇を深めていく彼を、何故だか愛おしいと感じるのだ。同情ではない、哀れみでもない、純粋に、ただ愛おしい、と。きっとこれは、通常の男女の間に芽生えるような、生温い感情ではない。

「いんや?…好きだぜェ、その眼」
「……、それはどうも」
「…だがあんまり好みが過ぎると、ぶっ壊してやりたくなる、ね…っ!」

 踏み込まれた剣戟をいなして距離をとり、もう一度刀を構え直す。瞳孔を開いて牙を剥く彼の姿はまさに獣だ。
 ああ、確かに、こんなにも隔たった、相容れない私達だからこそこうして惹かれあうというなら、これほど皮肉なことはないだろう。

「…それはまた、光栄ですね、」

 それでも、この世界がなくては私は彼に出会えなかった。この隔たりがなくては私は彼に惹かれなかった。だから、目の前の美しく哀しいケモノの分までこの世界を愛そうと、私は心を決めている。

切っ先が愛おしい
20110801

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