※3Z坂田銀八
「お、うまそーなモンもってんねえ、ん?」
「うげえ」
「うげえってなんだよ、せんせー軽くショックだよ」
女子高生とは、実にアンバランスな年頃だ。女と言うにはあどけない、しかし少女と言うには些か成長し過ぎたような、曖昧で、危うい存在だ。
特有のピンク色をした紙パックを手にしてストローをくわえる姿はどちらかといえば少女に近い。何より彼女の着込んだ制服がまだガキであるという証拠だったが、唇の艶やかさは既に女のそれだった。
「なんで見つかるかなあ」
「そりゃあほら、せんせー甘い匂いには敏感だから」
ん、と当然のように手を出せばじとりとこちらを見上げる視線。一口ですよ、としぶしぶ手渡された苺牛乳のストローが、いやに魅惑的に見える。
そのストローから言われた通り一口吸うと、甘い香りが鼻までぬけて、口内に独特の甘味がじわりと広がった。
「ん、さんきゅ」
差し出したパックを受け取ろうともせず、目を逸らして真っ赤になっている彼女に首を傾げる。が、少ししてからその原因にああ、と思い至って、じわりと胸が熱くなるのを感じた。あまりにも初すぎる反応に頬が緩む。
まだいっぱい入ってんぞ、いらねえのか、とわざとらしく問いかけても、彼女はこちらを見ないままだ。ちょっとばかり大人びた身体つきをしていたって、所詮は経験も何もないガキなのだ。可愛いねえ、全く。
「何?先生との間接ちゅうがそんなにいやですかコノヤロー」
揶揄うように口端を上げると、口調が気に食わなかったのか、彼女の顔はますます赤くなり、眉間には小さく皺がよる。
「……せ、セクハラ!変態!スケベ!」
全くもってガキくさい表情だ。けれどその中で、羞恥に濡れた目元といやに色っぽい唇だけがやはりどこかアンバランスで、そそる、というか。そんなことを考えている俺も大概重症かもしれない。
彼女は続けざまに「それはもういらない」と子どものように叫び、くるりとこちらに背中を向けてばたばたと走り去った。あっというまに小さくなっていくその華奢な背中に、に、目を細める。
「……セクハラ、ねえ…」
間接的な接物だけであんな反応されたら、ますます直接あの唇を吸ってやりたくなるっての。そう心の中で呟きながらがしがしと頭を掻く。そうしたら今度は、どんな顔を見せてくれるだろうか。
先ほどの赤くなった顔を思い返しながら俺はもう一度ストローに吸い付いて、その人工的な甘さに唇を舐めた。ああ、これは年甲斐のもなく、欲しくなっちまったかも。
水面下で熱を持つ
20110802