科学技術がいくら進歩したって、生殖の仕方は原始の時代から不変だ。卵子と精子が出会わなければ新たな生命が生まれることはなく、そしてその出会いを実現させるには、女が男の致命的な侵入を許すしか、基本的に方法はない。それが人間の生が未来へと繋がれていくための、たったひとつの方法なのだ。

「ん、…銀さん…っ」
「うん、?」
「はぁ、…あ、銀さん、…」
「…大丈夫大丈夫、」

 助けを乞うように手を彷徨わせている彼女を、論理性の欠片もない言葉で宥める自分に心の中で苦笑する。求められるままに指を絡め、片手を繋いでやると、なまえは少しだけ安心したような顔をした。彼女は、必死だ。瞳に涙を浮かべ、呼吸を荒くして、なんとか俺の無遠慮な侵入を受け入れようと小さな身体を投げ出している。その健気さが可愛らしいと、いつも思う。優しくしてやりたいと思う。切羽詰まった彼女が、縋るように自分の名前を呼ぶのも堪らなかった。
 彼女の身体を挿入しやすい角度で抑えつけたまま、奥に向かってゆっくりと腰を進める。きつい粘膜を押し開く感覚に耐えて最奥まで到達すると、なまえはびくりと下肢を震わせた。一度息を吐き、内壁にきつく吸い付かれる感触を味わいながら腰を引いて、彼女の好む浅いところを何度か軽く突き上げてやると、高い声が上がり始める。

「んっ…ぁ、あ、…はぁっ」
「……っ、ふ、気持ちいいなあ?」
「ァ、ん、…あっ…、」

 少しすると、彼女は律動に合わせて悦いところを擦り付けるように腰を揺らし始めた。欲望に従順なその姿にほくそ笑む。清らかで純粋だった彼女を、こんなにも快楽に弱い女に仕立てたのは他でもない自分なのだという自負があったからだ。なまえが俺に与える満足は計り知れなかった。
 挿入を深めて今度は奥の方に熱の先端を押し付けながら、眼下で揺れる白い乳房を下から撫で上げ、その先端を爪で引っ掻くと内壁がきゅうっと締まる。触っている方だけが硬さを増していくのが面白くて、そのままそこに唇を寄せて歯を立てると、一際大きく彼女の腰が跳ねた。そうしているうちに彼女の中はぐずぐずに溶ける。腰が滑るように動き、なまえの嬌声はまた一段と甘くなった。

「っは、…ぅ、…や、…っだめ、」
「駄目?…大丈夫、なぁーんもだめじゃない」

 無責任な言葉に続けて、可愛いよ、と囁く自分は本当に碌でもないなと思いつつ、なまえの表情を確かめると、恥ずかしそうに視線を逸らす彼女の瞳が熱を帯びて濡れていた。普段の、理性的な彼女を知っている分、その様は扇情的で、皮膚の内側で一気に欲望が燃え上がっていく。下腹の辺りにずくずくと溜まっていく熱に堪らなくなり、身体をずらして抽送の角度を変えると、彼女は喉を反らして喘いだ。打てば響くようななまえの身体はいつも、必要以上に俺の神経を昂らせるのだった。簡単に情に流されるような生き方はしていないはずなのに、彼女を前にすると何だかうまくいかないことが多い。
 彼女を辱めるような台詞をひとつかふたつ吐いてやりたい気持ちになり、律動を緩めて口を開く。けれど、次の瞬間にはうっとりとこちらを見上げているなまえと目が合って、俺は言葉を失った。彼女は何か言いたげに唇を震わせている。短く息継ぎを繰り返し、呼吸を整えようとしているその姿に、肺のあたりがぎゅうぎゅうと絞られるような苦しさを覚えた。酸素を求めて必死に呼吸を整えているような苦しさが、どこからともなく襲ってくる。彼女をこんな姿にしているのは他でもなく俺自身のはずなのに、何故だかこちらが追い詰められているような気分だ。

「ぁ、…っ…ぎんさん、」
「…、…ん、…?」

 自分が何を言おうとしていたかなど忘れて、掠れた音を漏らす彼女の口元に耳を寄せると、シーツを掴んでたはずの彼女の指先が僕の頬にそろりと触れた。口付けを強請られているのだと解り、吸い寄せられるように唇を合わせると、なまえは心底幸せそうに微笑んだ。その表情は俺を自惚れさせるのには十分で、ついさっきまで滾っていた加虐心が跡形もなく溶けて消えていく。
 とろりと融けた瞳に涙を浮かべたなまえが、好き、とやはり掠れた声で囁くので、くらりと軽い目眩がした。いまこの瞬間、あまりにも真っ直ぐにこちらへと向けられた感情が、痛いほどに突き刺さる。彼女がこの言葉を口にする度に、敵わないな、と思う。理屈じゃない。ただただ、彼女には敵わないと痛感する。彼女の身体も、感覚も、心も、全て支配しているような気でいて、その実、全くの逆なのだ。それさえもこんなにも心地いいのだから、もう救いようがない。

置き去りの星
20190916

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