お酒を飲み過ぎたせいだろうか、ベッドに沈む身体がいつになく火照っている。これはあまり良くない傾向だ。こうなるといつも、羞恥心や自制心が、普段より機能しなくなる。翌朝にはもれなく後悔することになると解っているのに、理性がいつもの役割を忘れてしまうのだ。ぼんやりとそんなことを考えている間に覆いかぶさってきた彼の身体には、間接照明による独特の陰影が浮かんでいた。その濃淡はなんとも魅惑的だ。

「…すごい、溶けてる」

 秘部をぬるりとひと撫でされた、その感触で、そこがいかに濡れているのか嫌でも分かる。バーナビーは糸を引く指をこれ見よがしに舐めてから、その美しく長い指を胎内へと差し入れた。彼の指がゆっくりと動くたび、耳を塞ぎたくなるような水音がする。絶対にわざとだ。
 僕のを舐めて興奮しました?と、耳元で私を辱めるような言葉を吐く彼に対してどう反応するべきか、頭の中でぼんやりと考えてみるが、答えは出てこなかった。自分では届かないようなところを掻き回され、思考回路もぐちゃぐちゃにされて、焼き切れた脳は何の役にも立たない。私の口からはただただ繕えないほど悦楽に満ちた声が漏れる。

「ぁ、っ…はぁ、…あっ」
「はは、可愛い…」
「…や…、ばーにぃ…っ」
「…なまえ…ここ、?」

 耳たぶにキスをされ、食まれると同時に、内部を解していた指で奥の方をとんとんと刺激され、きゅうと切なく子宮が疼く。肯定するように彼の首筋に腕を回して、はやく、とだけ言うと、彼が微かに笑ったのが空気だけで伝わってきた。───彼の思うがままに躾けられた、我慢の効かないこの身体の奥を、一刻も早く掻いて欲しい。そう切実に願う一方で、これ以上、はしたないところを彼に見られたくないとも思うのだから、乙女心は複雑だ。
 散々に中を溶かした指がようやく引き抜かれたかと思うと、彼の性器がぬるぬると入り口を擦った。そのまま怒張したその先端で敏感な核を優しく弄ばれ、喉の奥が震える。互いの性器の最も敏感な部分を擦り合わせているという、本来なら羞恥に耐え難い状況にも関わらず、勝手に腰が揺れてしまうのは、この身体の主導権を奪われているからに他ならない。

「…はぁ、…ん、…っ」
「…ん、もうイきそうです?」

 じくじくと下腹部に溜まった熱は羞恥心と同じくすぐに逃げ場を失い、快感の頂点へと真っ直ぐに駆け上がる。問いかけに返事をする余裕もなく息を詰めた私を見て、彼はふっと口角を上げたかと思うと、見計らったように腰を引いた。刺激が止んだ途端に快楽が遠のき、行きあてを無くした熱が一瞬にして全身を蝕む。眼球は熱くなり、絶頂を逃した反動でびくびくと跳ねる背中は、バーナビーに腕だけで抑え込まれた。
 抗議のために彼の名前を呼ぼうとした、次の瞬間には、容赦なく、一気に奥まで押し入られ、文字通り息が止まった。遠のいたかと思った波が数倍になって押し寄せ、全身が引き攣るように震える。彼の熱をぎゅうぎゅうと締め付けながら、どうにか酸素を取り込もうと口を開けるのに、喉がつかえて上手く呼吸することすら出来ない。許容範囲を超えるような、もはや快楽とも呼べない何かが洪水のように全てを押し流す。そうしてすべてが、決壊、する。

「…は…っ、…なまえ…」
「っ…はぁあ…、や…っああん、」
「…その声、堪らないな…、っ」

 間を置いてようやく声帯が機能したかと思うと、聞いたこともないような声ばかりが零れ落ちる。いつもよりもゆっくりと、中を味わうような彼の腰の動きに息継ぎもままならず、訳の分からないまま目の前の肩に無我夢中で爪を立てる。バーナビーは宥めるようにそんな私の髪を撫でた。いつの間にか溢れていたらしい涙を熱い舌先で掬い上げられたかと思えば、奥に押し当てられたまま一度律動が止み、唇に優しいキスが落ちてきた。

「…中でイくの、気持ちいいでしょう?」
「っ…ばか、…」
「…ふふ」

 下降線を辿り始めた快楽の中、やっとの思いで悪態を吐くと、翡翠の瞳が満足そうに細められた。サディスティックなその表情に、思わず唾を飲む。
 バーナビーは何度か啄ばむようなキスをして、私の表情を確かめてから、再び腰を動かし始めた。今度は快感を追うための速さで突き上げられ、また小さな波が寄せてくる。少ししてぐっと彼の全身が強張ったかと思うと、彼は一層結合を深め、喉の奥から声とも言えない声を漏らしながら射精した。ぶるりと彼の腰が震え、そのあともゆるゆると、全てを出し切るように何度か中で動かれて皮膚が泡立つ。目を閉じて身体の感覚に集中すると、最深部で彼の熱を感じることに言葉に出来ないような悦びがあって。だから、引き抜かれていく性器の感触に奥が切なく疼いてしまうのは、仕方のないことだと思いたい。失われた質量を求めて蠕動するのを自覚して彼を見上げると、やはりそこには嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

此れは絶望に似ている
20190201

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